募金に関して
2011年06月11日 01:42
作者:やんばる
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星々の声

法政大学『もの書き同盟』の者です。カタチに出来ない小さな声を、せっせと拾い集めて現地の人々まで届ける事ができたならば、と常日頃の思いを拙い筆で綴りました。震災被災地の一秒も早い復興を祈って。

 テレビの中には、延々と同じ言葉を唱え続けるニュースキャスターたち。
もう何度も聞いた現地の惨状。被災者の声。余震への不安。政府の対応。
まるで時報のように、それらは繰り返し繰り返し伝えられる。
機械的にさえ思えるその報道が頭の中を木霊する度に、僕の心は蹴りつけられるように痛み軋んだ。
震災の直後から、明るく陽が差す我が家のリビングは暗く粘つく沼の底へと姿を変えた。
家族全員が押し黙り、身動きもせずテレビに向かう。恐らく僕に気を遣っているのだろうけれど、実際は逆効果も甚だしい。
彼らが平静でいようとすればするだけ、装っている部分がじわじわと浸み出すように露呈してくる。


 多種多様な毒気が混ざり合う部屋の空気に当てられて鈍い頭痛を覚えた。
ぐらぐらと地面が揺れるのは余震の所為ではないだろう。
ついには腹の底から臓腑がせり上がるのを感じて、僕は急いで家の戸を抜ける。
今すぐ逃げ出したいと、そう思った。
自分が立っているこの世界が夢であれと切に願い、それが叶わぬのなら、せめて全てを忘却の彼方へ投げ出したいと神に祈った。
あてもなく、深夜の東京をただ我武者羅に駆け回る。阿呆のように。走る。走る。馬やら鹿のように。
それでも現実の影はついてくる。どんなに息を切らして走っても、どんなに無様に足掻いても、そいつは僕の背中にぴったりと張り付いて離れない。


やがて僕は観念するように、アスファルトの上にへたり込んだ。影もまた、僕の傍らにそっと腰を下ろす。
シャツ一枚にスウェットという格好。完全に露出した腕を三月の空気が切りつけ、かいた汗を瞬く間に凍らせる。
そうして、ふと思い描くのは被災地の夜。彼らも着の身着のまま逃げ出した。
やはりこうして凍える夜を過ごしているのだろうか。
神様が地面を揺らしたあの日から、食べ物が喉を通らなくなった僕のように、彼らもまた、空腹のまま朝日が昇るのを待つのだろうか。
そして、僕が君を想うように、大切な人を夢の中にまで探すのだろうか。


『僕は君に何をしてあげられるだろう?』こんなにも離れた、何不自由の無い、満たされた場所から。
居場所も分からない君に、苦しみも分かち合えないままで。


僕の頬を静かに伝う流れ星。あまりに儚いその軌跡を辿って見上げる夜空。
かつてない規模で電力の使用を抑えた東京の暗い夜空。
そこには埋め尽くすような星々が爛々と光り輝いていた。
僕は思わず息を呑む。今までに見た事の無い、あるはずのない光景が目の前に広がっていた。

そのままずっと眺めていると、どんどん空が低くなる。星が降ってきているのか、自分が空へ吸われているのか。
ぐっと手を伸ばせば、なんだか掴めそうな気がしてくる。
『僕は君に何をしてあげられるだろう?』さっきと同じ言葉を今度は口に出して言ってみる。
きっと、この夜空ならば答えてくれる、そう思った。
どんな囁き声も聞き漏らさないように、耳に手を当て、目を瞑る。聴こえてくるのは三月の風、影の足音と星々の声。