募金に関して
2011年04月28日 19:54
作者:坂田翔
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俺ののびのび人生を返せ!

 

 桜の花びらが春風で地面にひらひらと落ちる四月、俺は中古の自転車にまたがってまだ寒い海風が吹く道を走っていた。今日は、俺にとってそしてこれからの三年間の生活に欠かせない大事な日だった。そう、今日は中学三年生の時に受験し合格した、高校の入学式なのだ、これからの俺の高校生活が始まるのだ、だが、この時俺はまだこれから起きる波乱万丈な生活が待っているなんて俺の頭の中にはなかった。
 そして、自転車を学校の近くにある駐輪場に停め、学校へ続く長い坂道を重い足で歩いていたのであった、そして俺はこの時、学校選びに失敗したと思った。なぜなら、この坂道が非常にきついのだ。以前にこの学校の受験を受けるためにこの坂道を上ったが、その時は車で丘の上まで上ったため、実際にこの自分の足で歩いたわけではなかった。車の窓から、ただ眺めていただけだった。まさか、学校の校門をくぐる前に、こんな挫折をするなんてまったく予想してなかったぜ、そう思いながら学校の校門をくぐったのであった。そして、その気持ちを切り替えず事が出来ないまま入学式を臨んだのであった。こんなにテンションが低くそして少し暗い感じで入学式をすることなんてもう二度とないだろうと俺は校長の長い挨拶をしている時に思った。
 入学式が終わり新しくこの高校に入学した生徒は、これからの一年間を過ごすクラスに移動になった。そして俺は四階の端っこにあるこれから一年間世話になる教室に移動した。そして、クラスの生徒が全員、自分の席に座った時担任が入ってきた。そして、教壇に名簿帳らしき物を置いて言った。
「これから一年間、このクラスの担任になった山田健太郎だ。担当の教科は、保健体育だ。これから、一年間よろしく」
 と俺たちのクラスの担任の山田教諭が挨拶した。
「それじゃ、みんな知っている人がいるかも知れないがまだ先生も知っている人がいないしまだみんなも知っている人も少ないかもしれないから早速、自己紹介したいと思います。それじゃ、廊下側の席から順に行きたと思います。それじゃ、廊下側の一番前の席の人、お願いします」
 と担任が言うと窓側の一番前の席に座っていた人が椅子から立ち上がり自分の紹介を始めた。
「久礼中学校から来ました中山和也です、特技は……」
 と自己紹介を始めた。この高校生活で最も重要な事が始まったのであった、これの結果次第で自分の印象が決まる失敗は許されない自分のアピールタイムが始まった、そして俺の前の席に座っていた人の自己紹介が終わり俺の番になった。そして
「これから、一年間よろしくお願いします」
 と言って俺は、自分のアピールタイムを終えたのであったそして、拍手が鳴り響く中俺はゆっくりと自分の席に座ったのであった。
 そして、次の人に回った。まさか、自己紹介であんなことを言うなんて誰もそして俺も思っていなかった。そして、俺の記憶に永遠に残る自己紹介が始まったのだ。
「朝ヶ丘中学校出身中野沙紀です、私はつまらない人は嫌いです。この中で、自分は何か面白いことができるとかオカルト的なことを信じている人は私のところまで来なさい!」
 どこかのアニメで言っていたような自己紹介を中野はしたその結果、教室は一瞬で騒然とした空気となった、それまでの楽しい空気でつつまれていた教室がたった数秒の自己紹介で消されたのであった。
 そして、中野は騒然とした空気が漂う教室を見渡して席にゆっくりと座った、それを見ていた山田教諭はすかさずその場の空気を元の状態に戻すために
「……それじゃあ、次の人行こうか」
 と言って山田教諭は、中野の後ろの席に座っていた男子生徒を指名した。
「あ、はい。朝ヶ丘中学校から来ました久保です。趣味は……」
 と後ろの席に座っていた生徒が自己紹介を再開させた、他の人が自分の紹介をしているとき、中野は堂々と前を向いて偉そうに手を組んで俺の背中をじっと鋭い目で睨んでいた。
 こうして、俺たち二人は出会ってしまった。俺はまだこれから起こる波瀾万丈な高校生活になるなんてまったく思っていなかった。
 入学式の翌日、俺は昨日のあの中野が言い放った衝撃的な言葉を聞いて中野と絶対に話さないと思っていたのだが、朝、学校に行くと俺の後ろの席には中野が堂々とまっすぐと向いて座っていた。俺は横目でちらっと中野を見て、かばんを自分の席の横にかけた。そのままいたら良かったのだが、俺はなぜか後ろを向いて中野に話しかけていた。
「なぁ、昨日のあれって本気で言っていたのか?」
 と少し冗談気味に言って、中野に聞いた。
「昨日のあれって?」
「ほら、昨日の自己紹介の時に言っていたじゃないか、なんか面白いやつはいないかどうかっていうことを言っていたじゃないか」
「あんた、なんか面白いことができるの?」
「いや、できないけど……」
「けど、何?」
 中野が俺の方に顔を近づけて問いただしてきた。
「いや、なんでもない。悪かったな」
「じゃあ、最初から話しかけないでよ」
 と中野に言われた、そして中野は席から立ち教室から出て行った。中野が出て行った後、俺の周りにいた他の人たちは小声で「やっぱりな」と言っていたように聞こえた。俺の周りにいた人のほとんどは中野と同じ中学だった。

 そして時間は過ぎ昼休み、四時限目の授業が終わり俺は、食堂に向かった。
 食堂について食券の自動販売機で、Aランチを選びその食券を食堂のおばちゃんに渡してAランチに変えて俺は席に座った。
 別に、一人で食べるのはそんなに気にしないのだが周りの奴らが大声でしゃべりながら食べている人がほとんどだった、そんな中でポツンと一人で食べていると「あの子友達いないの?」とか「かわいそう」みたいに思われたくないから俺は、中学からの友達の井上と俺の前の前の席にいた中野と一緒の中学だった久保と一緒に食べた。
 そして、三人で食べていた時、久保が突然
「おまえ、今朝中野と話していたよな」
 と話しかけてきた。
「あぁ、話していたさ。それがどうした?」
「もし、あいつに気があるのなら悪いことは言わねぇやめとけ。中野とは三年間ずっと一緒だったから分かることなんだがあいつは一般的な常識をはるかに超えてやがる。あいつには、常識っていう言葉がないかっていうほどな」
 そんなこと、あの紹介を聞いていれば小学生にだって分かる。
「中学の時は、いろんな事やっていたな。その中で一番有名なのは、黒板落書き事件」
「なんじゃそりゃ、黒板にただ落書きしただけだろう」
「いや、それが教室にある黒板だけなら普通のことなんだが、夜に学校に忍び込んで学校にあるすべての黒板に変な文字を書いていた事件なんだ。それでその翌日に、教師全員で犯人捜しになって一時期、犯人を知っているやつは教師に報告したら商品を差し上げるみたいなことやっていたなぁ、でも、最終的には犯人が自首してきて終わったけどな」
「その落書きの犯人が、あいつだったのか」
 俺は、卵焼きを食べながら久保に聞いた。
「あぁ、なんせ自分が犯人ですって教師に言っていたからな間違いない。他にもいろんな事やっていたなぁ」
「まるで、『涼宮ハルヒの憂鬱』に出てくるハルヒみたいやつだな」
 と俺は、苦笑いをしながら言った。
「本当、意味分かんねぇよ。んでも、あいつ結構モテルんだよなぁ、なんせ顔がいいしな。あの性格じゃなければ今頃はかなりもてたのになぁ……」
 と言って久保は途中で黙り込んだ。
「久保、どうした突然黙り込んで?」
 と俺は久保に聞いた。
「いや、なんでもない。とにかくだ、忠告はしとくぞ。もしもあいつに気があるのなら悪いことは言わねぇ、やめとけ。狙うならもっと良い性格をしたやつにしておけ」
 いやいや、やめとくも何も俺にはそんな気、ひとかけらもないのだが、とにかく俺は今日、久保から中野が中学校時代にとんでもない事件を何発も犯していることを知ったのであった。久保から中野沙紀が、どれほどの変人なのかを学んだ
 その翌日、今までおとなしくいた中野沙紀が動き出したのであった。中野がまず、最初に行ったことは、この学校にある部活を特に運動部を中心としてすべての部に仮入部をした、そして日付が一日ずつ変わるごとに違う部活に行くみたいな感じで回って、最終的にはどこの部にも入部しなかったらしい、一体こいつは何をしたいのかまったく分からなかった。
 そしてその次に中野が行った奇妙で奇抜な行動は、体育の着替えの時だった。体育の着替えの時は、男子が一年B組の隣にある空き教室で着替え女子は、各自の教室で着替えることになっている、どうしてこの学校には更衣室という部屋がないのかという疑問を抱いた、そして次の授業が体育の時まだ男子が教室にいるというのに中野はそんなのお構いなしに制服を脱ぎだしたのであった。まだ、男子が教室にいるというのに中野は俺たち男子のことをゴキブリ以下に思っているのであろう、そうとしか思えん。そして、俺たちは結局他の女子たちに教室から追い出されたのであった、男子を追い出した後女子たちは中野に熱いお説教をしたのだが、その後もまったく変わらずに中野は、また男子の前で着替え出した、もう女子たちの手では負えなくなっていた、そして、女子の代表委員が俺たち男子に授業が終わったらすぐ体操服を手に持って教室から出るようにと義務つけられたのであった。
 どうしてあいつのために俺たち男子は、アフリカのチーターのように教室をすばやく出なきゃいけないのかと思った。
 さすがに、これ以上は奇人変人な行為はしないだろうと思っていたが、中野の奇人変人ぶりはこれだけではなかった。それは、中野の髪型が毎日変わることだった。月曜日はストレートの髪型、火曜日はポニーテール、水曜日はツインテール、木曜日は三つ編みに、そして金曜日は髪を団子状にまとめた髪型だった。それが一週間回るのであった。俺はそれを見て、中野はあるアニメの世界をこの現実に再現したいのかと思った。アニメと現実を混ぜるなとツッコミたかったが、あいつにツッコムとなにか言われそうな気がしたから、俺はツッコミたい気持ちを抑え我慢したのであった。
 
 それから一週間経ち春分の日の翌日、俺はいつも通りの時間に学校に登校して教室に向った。
 そして、教室のドアを開けて教室に入ると俺の後ろの席にはもう中野が座っていた、今日は火曜日だからポニーテールかなと思って中野を見ると俺の予想は的中していた。中野の今日の髪型は、長い髪の毛を後ろでくくったポニーテールだった。
「やっぱりな、予想通りだ」
 と俺は小声で言い、俺は自分の席に座った、間がさしたのかは分からないが、俺はなぜか後ろ向いて
「中野よ、曜日ごとで髪型を変えているのは、なんでだ?」
 と中野に話しかけていた。
「いつ、髪型に気がついたの?」
 そんなこと、一週間見ていれば誰だってそれくらい分かるさと言おうとしたがさすがに、こんなことを中野に言うとまたなんか言われそうな、気がしたから俺はあえて
「ちょっと、前に」
 と自信な下げに中野に言った。
「あっそ。私ね、髪型を変えていたらいずれは誰か面白そうな人が来るかなぁって、思っていたの」
「まぁ〜、お前がどうして髪型を変えている理由は分かった、それじゃあ聞くけど、曜日と髪型にはなんか意味があるのか?」
「その日の占い次第で決めているのよ!」
「その髪型、占いで決めているのか」
 占いで髪型を決めているなんて、この世を生きてきて初めて聞いた。
「いいじゃない、そんなの私の勝手でしょうが! なんであんたに、わざわざ文句を言われなきゃなんないのよ!」
「ぁ! いや、そんなつもりで言ったんじゃないんだ」
 その前に言うが俺はこいつに対して、文句なんて、一言も言ってないぞ。俺は、ただ普通に返答しただけなのに
「じゃあ、どういうつもりで言ったのよ?」
「いや、そんな占いで髪型を決めているなんてそんな珍しい子がいるんだなぁ〜と思ってさ」
「あっそ」
 そう言うと中野は、俺の方を目新しい目でじっと見つめてきた。
「なんだ、俺の顔になんか変なものがついているのか?」
 俺がそう言っても中野はただじっと俺の方を見ていた、そして、中野は閉ざしていた口を開いた。
「……私、あんたとどっかで会ったことがある。ずいぶん前に……」
 そんなことは、一切ない。もしも、そんなことがあったのなら、俺はお前と会ったことを永遠に覚えているだろう。
「いや、俺はお前には一度も会ったことはないぞ」
 と俺が言った瞬間、担任の山田が入って来て朝のホームルームを始め、俺たちの会話そこで止まった。そして俺はこの時思った。俺は初めて、中野とまともな会話ができたような気がする、普段なら「あんた、バカね」「あんた、つまんない」「つまらない!」と言われるところだったが、今日の会話には、そんなことは一切言われなかった。たまたまだったんだろうか、とにかく今日は、いつもよりもきつい言葉を言われなくて本当に良かったと心の中で思った。
 これがきっかけに、なったんだろう。その翌日から朝のホールルーム前の少しの時間だけだが、中野と話をするのが毎朝の恒例になった。本当に、あるアニメを現実で再現しているように思えてきた。
「なぁ、中野よ。お前確かこの学校にある全部の運動系の部活に仮入部したんだろう?」
「したわよ、それがどうしたの?」
 中野は淡々と返答した。
「だったらさ、どこか面白い部活はなかったか? あったら、俺に紹介してくれよ」
「そんな面白いところがあったなら、もうとっくに入部して活動しているわよ!」
 そりゃそうだ、もしも、この学校に中野が面白いと思ったところがあったのなら、もうこいつは、入学してすぐそのクラブに入部届けを出しているだろう。
「高校に入学したら少しは、ましになると思ったのに、全然変わらないわね」
「お前が通っていた、中学校はそんなに面白くなかったのか?」
 まぁ、こいつの過去話なんてどうでもよかったが、なんとなくのつもりで中野に聞いてみた。
「まったく、面白くなかったわよ! 特に運動部の部活なんか、ただ練習するだけで体を動かすだけのクラブよ! そんなのが、面白いって思っている人たちの、気がしれないわね!」
 全国の運動系の部活に入っている人たちを敵に回すような危ない発言を中野は言った。
「それじゃ、聞くけどな、中野よ。お前にとって面白いと思うときはどういったときなんだ?」
「そうねぇ、まぁ怪奇現象的なことやオカルト的なこととか、まぁいろいろあるわね」
 俺は口をぽっかり開けていた。なぜなら、中野はお笑いみたいな感じのやつが中野にとって、面白いという分野に入ると思っていた、俺の考えをこいつは二百六十度回転させやがった。
 俺が口を開けたまま、目をパチパチとさせていると今度は中野が俺に聞いてきた。
「それじゃ、逆に聞くけどさ」
「なんだよ」
「あんたこの世に宇宙人とか妖怪や幽霊みたいなオカルト的なものが、この世に存在すると思う?」
 一番答えづらいことを聞いてきやがった。
 俺は、しばらく黙り込んで考えた。そして、俺は閉ざしていた口を入らいて言った。
「そうだな、俺には分かんねぇが多分、いるんじゃないのか」
「どうして、そう思うの?」
「それは、その……」
 と俺は、黙り込みどう返答したらいいか考えた。俺が考えている間中野は、俺の顔を目を凝らしてただじっと見ていた。そして俺は閉じていた口を開いて言った。
「いや、俺にもよく分かんねぇが、とにかくだ、この世にそんな宇宙人や妖怪や幽霊的なものがいないなんて、俺にはそんなことを否定する理由もないし」
 黙り込んで考え最終的に導いた答えは、中野に対して肯定側に立つことを選んだのであった。もし、ここで否定的な事を発言したら中野は絶対に「あんたつまらない男ね」とか「つまらない!」や「あんた、もうちょっと夢見たらどう?」とか言われるのが落ちだと思って、俺は肯定側の意見を言ったのであった。
「あぁ、そう」
 と中野は、つぶやいた。そしてその時、運がいいのかは分からないがタイミング良く担任が入ってきたので、俺は前の方に体を向けた。今日の中野との会話は終わりだなと思った。
 そして時間は過ぎて、一時限目の授業が終わり休み時間になった瞬間、中野は教室から出て行った。そして、久保が俺のところに来た。
「おい、お前どういうとこだ!」
「なんのことだ、俺がお前になんか悪いことでもしたのか?」
「お前、一体どんな手を使ったんだ?」
「だからお前は、一体俺に何の話をしているんだ? それを教えてくれ」
「お前よくあの中野とあんなに長く話せるよな、中学の時はあんなに長々と会話したことなんてないのに、本当にお前どんな手を使ったんだ?」
 俺はただ普通に中野と話をしていただけなんだが、久保にとってそれは、世界遺産みたいに珍しい事らしい。
「驚天動地だ」
「ハルヒの方からパックってくるな」
「昔から、変な女子が好きだったからねぇ」
 そこに、井上が入ってきた。
「間違ったことを久保に教えるなよ。てか、
 お前もハルヒからパクルなよ! 井上よ」
「だってさ、中学の時たしか森光さんのことが……」
「井上、それ以上俺の中学時代の事を言ったら殴るぞ!」
 俺は鋭い目で井上が、それ以上俺の中学時代のことを喋らないように怒った。
「ごめん、ごめん」
「なぁ、井上よ。その森光さんっていうのは誰なんだ?」
 久保が井上に聞いてきた。
「中野さんみたいに、変な子だったなぁ。んでも、中野さんっていう程じゃなかったよ。確か、中学二年の時に同じ塾に通っていなかった?」
「あぁ、一緒に行っていたけど、それがどうしたそれほど騒ぐことじゃないだろう」
 俺は、顔を横に向けて答えた。
「へぇ、それでその森光さんって頭よかったのか?」
「うん、常に学年トップだったなぁ」
「それで、森光さんはかわいかった?」
「そりゃもう、学年内で一番かわいかったよね?」
 井上がにこにこと笑いながら俺の顔を見ながら言ってきた。
「知らん、……覚えてねぇな」
「またまた、嘘ついて。素直じゃないねぇ」
 井上がそう言った時、チャイムが鳴りその話はそこで終わった。
 まったく、井上のやつ余計なこと言いやがって、いやなことを思い出したじゃないかと俺は思いながら二時限目の数学の授業を受けたのであった。
 
 時は流れて翌日の朝、俺がいつの時間よりちょっと早めに、家を出て自転車をいつもの駐輪所に停め、須崎商業高校へ連なる坂を歩いていた。そして坂の中腹地点で、誰かに肩をたたかれ、俺は後ろを向いた。
「なんだ、久保か」
 そこには、朝からテンションが高い久保がニコニと笑いながらそこにいた。
「お前、今日は珍しく早いんだな」
「今日は、珍しく早めに起きたからな」
 と言っても、ただ目覚まし時計のタイマーをいつも時間より早めにセットしてしまったからいつもより早い時間に起きてしまったのだ。本当ならまだ、ぐっすりと寝ている時間帯なのに
「そっか。なぁ、今日って体育の授業ってあるか?」
「ねぇよ、お前昨日の山田の話を聞いていなかったのか? 体育の授業は、火曜日と水曜日と木曜日の週三日あるって昨日、言っていたじゃねぇかよ」
「そうだっけ、まったく話を聞いていなかったぜ」
「人の話くらい聞けよな」
 と久保と話をしながら坂を登って行った。
 玄関について俺が下駄箱に靴を入れて上履きに履き替えて、教室に向おうとした時また、肩を叩かれたので後ろを向くと
「ちょっと、来て!」
 そこには、長い髪を一つにまとめたポニーテールの髪型をした中野が立っていた。そして、中野は何も言わないまま俺の学ランの襟を掴んで俺を引っ張って行ったのであった。
「おい、なにするんだ! 俺を一体、どこに連れて行くつもりだ!」
 俺は中野に聞いても、中野は答えてはくれなかった、そしてしばらく間、中野に引きずられたのであった。そして、誰も来ないような空気が漂っている廊下に連れてこられたのであった。
「お前、こんな誰も来る気配がないこんな廊下に、俺を連れて来て一体何のつもりだ?」
 と俺が中野に再び聞くと、中野は俺の学ランの襟から手を離し、俺が襟を直している時に中野がようやく閉ざしていた口を開いた。
「どうして私、こんなことに気付かなかったんだろう?」
「一体、何に気付いたんだ? 俺に分かるように、説明してくれや」
「なかったら、自分で作ればいいのよ?」
 こいつは、俺の話をまったく聞いてはいなかった。
「だから一体、お前は何を作るつもりだ?」
「部活よ!」
「はぁ!」
 俺は、こいつが何の事を言っているかまったく分からなかった。
「おもしろい部活がなかったら、自分でつくればいいのよ!」
 俺は、こいつがまた変なことを言っていやがると思った。
「まぁ、お前が言いたいことはだいたい分かるんだがな」
 実際は、まったく分かっていなかった。
「それで、どうしてそんなことを俺に言うんだ?」
「私は、部員と部室を確保するからあんたは学校と生徒会に、提出する書類をそろえなさい! 提出しないと後から生徒会とかにゴチャゴチャ言われそうだからね」
 こいつには、本当に人の話を聞くという能力がないのかと俺の心の中で思った。
「どうして、俺がお前の新しく作る部活に協力しなきゃいけないのか、その理由を教えてくれ」
「いいじゃない、どうせあんたいつも暇でしょう。いい暇つぶしになるからいいじゃないのよ」
「まぁ、確かに暇だが。でも作るといっても一体、どんな部を作るつもりだ?」
 俺は、一番重要な事を中野に聞いた。
「まだ決めてないわ! とりあえず作るの、いいわね! それじゃ、今日の放課後までに調べておいてね!」
 と言い残し、中野は走って行った。
「おい、ちょっと待て! 俺はまだお前に協力するなんて一言も言ってないぞ!」
 だがその言葉を言った時には、もう中野の姿はなかった。なんて素早い子だと思った。てか、こういうシチュエーションをどこかのアニメで見たことがあるような気がした。そんなことを思っていた時に、チャイムの音が廊下中に響いた。
「やべ、急いで教室に戻らないと!」
 と言って俺は、猛ダッシュで教室に向ったのだが、結局、間に合わずに遅刻扱いにされてしまった。
 畜生、中野のやつめ、あとちょっとでチャイムが鳴ることを知っていて、あの場からさっそうと去りやがって、それを知っているのなら俺にも教えてくれよなと俺は思いながら、遅刻にはめっぽううるさい山田教諭の熱いお説教を受けていたのであった。
 
 朝は散々な目にあったのだが、今日はあの中野からようやく解放される日だ。なぜなら今日は、このクラスになって初めての席替えをすることになっているのだ。席順の決め方は、クラスの多数決でくじ引きになった。俺にとっては、中野から離れれば席の決め方なんて、どうでもよかった。とにかく俺は、中野の目から放たれる、ライオンが獲物を見つけて、それをただじっと見ている。あの視線から解放されたいのだ。そして、いよいよ俺の前の奴が引き、俺の番になった。俺はゆっくりと席を立ち、教卓の上に置かれているくじ引きの箱から一枚の紙をとりそのまま自分
の席に戻った。そして座ってすぐに、取ってきた紙に書かれている番号を見た。そして、その番号と黒板に書かれている席順の番号とを照らし合わせた。結果は、窓側の一番前の席になった。その間に中野は、教卓の上あるくじ引きの箱から紙をとりそのまま自分の席に座った。あいつが何番かを引き当てたのか気になったが、俺は聞かなかった。もしも、あいつが俺の後ろの席の番号を引き当てていたら俺は、また頭を抱えることになるだろうと思ったからである。
 俺がそう思っている間にクラス全員がくじを引き終え、机の大移動が始まった。俺は、自分が引き当てた指定のポジションに机に置き、椅子に座った。そして、そのまま外を眺めたていた時、担任の山田教諭が
「よし、みんな席の移動は終わったな。一学期はこの席で行くからな、それじゃあ残りの時間は、自習にします。チャイムが鳴るまで教室から出ないように、チャイムが鳴ったら休み時間にしてください」
 と言い残し担任は、教室から出て行った。
 山田教諭が出て行った後、他の人たちは自分の机の前後にいる人と話しだした。俺もそれに乗っかり、俺はゆっくりと後ろ向き後ろの人が誰なのかを見た。そこには、さっきおさらばしたはずの中野が堂々と腕を組んで座っていた。うわ、こんなこともどっかのアニメでもあったような気がした。
「中野よ、お前ここの席の番号くじを引いたのか?」
「そうよ、なんか文句あるの!」
 と中野は、不機嫌そうな雰囲気を漂わせて言った。
「いや、そんなことはない」
 また、頭を抱えることになりそうだ。
「あっそ、それであんたちゃんとあれ調べたの?」
 中野は、怖い目をして聞いてきた。
「はい?」
 俺は、ど忘れしたような顔をして中野に聞いた。
「あんた、朝の話聞いてなかったの? 学校と生徒会に提出する書類の内容よ!」
「……あぁ、あれか。その前に、俺はお前に協力するなんて一言を言ってないぞ」
「そんなことをネチャネチャと言っている暇があるなら、さっさとやりなさいよ! どうせすることもないのだから、いい暇つぶし位にはなるでしょ。とにかく、今日の放課後までには調べておいてね」
 と中野が言った瞬間、チャイムが鳴った。
 チャイムが鳴った瞬間、中野は席を立ち教室から出て行った。確かに中野が言ったことには一理あるが、俺はいつも暇じゃないのだと俺は、心の中で鼓膜が破けそうな位の声で叫んだ。
 
 時間は経ち放課後、俺はまた中野にまた学ランの襟を掴まれ、ズルズルと引っ張られていた。
「おい、今度はどこに連れ行く気だ?」
「あんた、ちゃんとあれ調べておいてくれたよね?」
 早速、俺の質問を無視しやがった。
「あぁ、ちゃんと調べたさ」
 と言っても、生徒手帳の後ろの方に書かれていた、調べるまでもなかった。
「そう、それじゃあんた書類書いて生徒会と学校に提出しておいてね」
 また、俺に命令しやがった。
「おい、俺はまだお前がどんな部を作るのか知らないのに、どうやって書類に書けって言うんだ? そういうことは、新しく作る部の創設者が書くものじゃないのか?」
「私は、ちゃんと部室も確保したしそれに、まだ部員もいないからそれの確保もしなきゃ、いけないのよ。それに比べて、あんたはただ調べるだけって、こんなの不公平じゃないのよ!」
「俺は、ただ調べるだけって言われていただけだぞ」
「それじゃ、新しく命じるわ。書類を書いて提出しなきゃいけないところに出しておきなさい」
 俺はいつから、こいつの執事になったのかと心の中で思った。
「なんだ、その言い方は! もっとましな言い方くらいあるだろう」
「いいから、やりなさい! これで両方の仕事の量が同じになるから」
 これ以上、中野と口論していると翌日の朝になりそうだったから、俺は中野の理不尽な要求を『はい』と答えたのであった。
「そう、それでいいのよ! ……ほら、ついたわよ!」
 と中野が言うと、中野は今まで掴んでいた
 俺の学ランの襟から手を離した。俺は襟を直しながら立ち上がり前を見てみると目の前にドアがあった。そしてドアのプレートのとこには『写真部』と書かれていた。
「中野よ、ここなのか?」
 俺が写真部と書かれたプレートを指でさして聞いた。
「そうよ」
 と言って中野は、ノックもせずにドアを開けて中に入った。
「おい! ちょっと待て!」
 と言いながら、俺も中に入った。中に入るとそこには、誰もいなかった。
「これから、ここが私たちの部室になるからね!」
 と言いながら、中野は窓を開けた。窓からは海から吹くちょうどの風量で心地のいい風が、気持ちよく入ってきた。
「気持ちいいわ、やっぱり海が近くにあるとちょうどいい風が入るわね」
 と微笑み笑顔で言った。俺はこの時、初めて中野が笑っている顔を見たのであった。中野の笑顔は、まるで天使が微笑んで笑っているかのように見えた。思い起こせば、この学校に入学してから、もう数週間経つのだがその間、中野が笑っている顔なんて一度も見たことがなかった。俺は、口をぽかんと開けながら中野が笑っている姿を見ていた。
「ん? どうしたの、なんか私の顔になんか付いているの?」
 中野が振り向いて、俺に聞いてきた。
「いや、何にもついてないさ……そんなことよりも、本当にここを使っていいのか? ドアのプレートのとこに『写真部』と書いていたぞ」
 と俺は、正気に戻り俺は中野に聞いた。
「それなら大丈夫よ、写真部は今、廃部状態に等しいからね」
「おい待て、それじゃあまだ廃部になっていないじゃん」
 と俺が言うと中野は、堂々と自信たっぷりげに言った。
「いいのよ! もう誰も写真部に入らないし」
「なぜそんなことが、言い切れるんだ? その理由を教えてくれ」
「昨日、一学年全員に聞いてきたのよ。そしたら、みんな写真部には入らないって言っていたのよ!」
 よくまぁ、そんな大胆な行動がよく出来るよなぁと思った瞬間、中野が何かを思い出したような顔をして俺に言った。
「あ! 忘れていたわ、ちょっとここで待ってなさい! 待っている間に書類の方書いておきなさい」
 と言い残し、中野は部屋から出て行った。
 残された俺は、近くにあったパイプ椅子に座って昼休みに生徒会からもらってきた、部活申請用紙に必要事項を書き込んだ。そして、中野が部屋から出て行って十分位経過して、申請用紙に必要事項をすべて書き込み、口を大きく開けて、あくびをしている時閉まっていたドアが大きな音を立てて開いた。
「ただいま!」
 中野が大きい声で言った。
「やっと、来たか。今までどこに行っていたんだ?」
 と言いながら俺は中野の方を見ると、中野の隣には背が小さく髪が腰のあたりまで伸びている女子がいた。
「おい中野、その人は?」
「この子は、一年C組の泉あやさん。部活何に入っているのって聞いたら、まだ入っていないって言ったから連れてきたのよ」
 また強引な理由で、連れてきたなぁと思った。
「あの、沙紀さんここってどこですか?」
 泉さんがよろよろした声で中野に聞いた。
「私たちの部室よ」
 と中野は、淡々と答えた。
「え? でも、ドアのとこに写真部って書いていたけど……」
「ここは、中野が不法に占領しているだけですから」
 と俺は、さりげなく付き加えた。ここで、言っておかないと後で、おかしな誤解を招くことになると思って言ったのであった。
「不法とは失礼ね、ちゃんと申請したでしょうが」
 と言って、中野は人差し指で俺の方を指した。
「いや、まだ生徒会とかに申請なんかしてないぞ」
 と言いながら俺は申請用紙を指差した。そしたら、中野が俺の隣に来て耳元で
「はぁ! あんたまだ、それ出してなかったの? 何やっているのよ!」
 と鼓膜が破れそうな大声で言われた。
「しょうがないだろう、さっきようやく書き終えたんだから、それに、お前に聞かないと分からない部分があるしな」
「どこよ? さっと教えなさいよ!」
 と言って中野は、申請用紙を手に持って言った。
「部員名のとこなんて書いたらいいんだ?」
 俺は、きっぱりと言った。
「これくらい分かるでしょ、ここには、私の名前とあやちゃんの名前とあんたの名前を、書けばいいのよ!」
 と部活申請用紙を机に思いっきり叩きつけて言った。
「どうして、俺の名前を書かなきゃいけないんだ? 俺まだ、お前が作る部に入るなんて一言も言ってないぞ。それに泉さんだってお前が強引に連れてきただけで、まだ入るとは言ってないだろう」
 と俺と泉さんの立場を中野に言うと
「あんた、自分の名前を貸すくらいいいでしょう。それに……」
 中野は、泉さんの隣に行き泉さんの肩をポンと叩いて言った。
「あやちゃんは、もうこの部に入ってくれるって、言っていたし」
「本当ですか、泉さん?」
「はい、今日の昼休みに中野さんの話を聞いて面白いかなって思って、『はい』って言いました」
 何と早い勧誘だ、あの数分間で勧誘しやがって、こいつに勧誘的な仕事をやらせれば確実に大儲けできるぞ。
「これで後、二人連れてきたら完全に正式な部として認められるわ」
「おい、ちょっと待て」
「何? なんか質問とかあるの?」
「部員が仮部員と正式の部員が二人になったのだから、この部がどんな活動をするか教えてくれや」
 俺は、まだ中野が新しく作る部活の活動内容を全く知らないのだ、いや、正確に言うとまだ教えられてはいなかった。
「あと、二人揃ったら言うわ! それまで、楽しみに待ってなさい!」
 と再び、あの天使が微笑んでいるような感じの笑顔で言った。
「それじゃ、今日はこれで解散。また明日この部屋に、集合ね!」
 と言い残し、中野は自分の荷物を持って元気よく廊下に出て、階段を降りって行った。
「ようやく、帰れる」
 とボッソとつぶやいて自分のかばんを肩にかけ
「それじゃ、泉さん。また明日」
「あ、はい。また明日」
 と泉さんに挨拶し、俺は部屋から出て自分の家に帰った。
 
 そして、その翌日朝、俺が普段の時間帯に起き、丘の頂上にある高校へ連なる坂道を上っていた時、今日も同じく後ろから肩をチョンと叩かれた。
「よ!」
 後ろを振り向いて、肩を叩いた張本人の顔を見ていると、いつものことだがそこには朝からテンションが高く、にこにこと笑っていた久保がいた。
「なんだお前かよ、朝からテンションが高いなぁ、お前は」
「一人だけテンションが高くて悪かったな」
 と久保は、肩を落として顔に手をポンと置いて言った。
「そう言えばお前さ、昨日の放課後はどこに行っていたんだ? せっかく、お前と一緒に帰ろうかなって思っていたのに」
「中野に連れ回されていたのさ」
 と俺は、昨日起こったことを鮮明に久保に、長々と説明した。そして、昨日起きたことをすべて久保に説明し終えると、久保は落胆とした顔をして、俺に言った。
「お前も、大変な奴に捕まってしまったな」
「うるさい、黙っとけ」
 と会話しているうちに学校につき、玄関で靴を下駄箱に入れ上履きに履き替え教室に向った。そして、教室のドアを開け教室に入ると俺の席の後ろの席には、右手で頬をついて外を眺めていた。そして俺はその姿を横目で見ながら、自分の席に座った。
「ねぇ」
 と後ろから声を掛けられたので俺は、後ろ向いた。
「なんだ、なんか用があるのか?」
 俺は、眠い目をこすりながら中野に聞いた。
「用があるから呼んだんでしょう。そんなことも分からないの? あんた、本当にバカなんだから」
「うるさい」
 お前に、バカって言われるくらいなら一般常識をもった奴にバカって言わる方がましだ。
「まぁいいわ、それよりも、今日の放課後ちゃんと部室に来なさいよ! 来ないと、許さないからね!」
「分かっているさ、それよりもお前あと三人、集めなきゃいけないんだろう。当てはあるのか?」
 俺は、部員のことについて中野に聞いた。
「大丈夫よ! ちゃんと当てはあるわ。私に任せておきなさい!」
 中野は、満面の笑みを浮かべで言った。中野が、笑っている姿なんて本当に俺は、入学してから一度も予想したことがなかった。なぜなら、俺が思っていた中野はいつも退屈そうな顔をして、このつまらない世の中を生きていることに、うんざりとしているみたいな感じの奴かなと思っていたが、今は違う。俺に思うに、あいつは他人から見ればちょっとばかり、おかしな一面はあるが、でも内心はただ純粋に、この世の中を楽しく過ごしていきたいという思いがあんな感じで表に出てしまう不器用な女の子だと思った。
「どうしたの? そんな、ぼんやりとした顔をして?」
「いや、なんでもない。ただ寝ぼけていただけだ」
「そう、まぁとにかく、今日の放課後部室に集合ね! 私より遅く来ていたら罰金として、500円もらうからね! 分かった?」
「あぁ、十分に分かったよ。後で、500円払えばいいんだな」
 と俺が言った時、担任の山田教諭が入ってきたから、俺は前を向いた。
 
 そしてそれから時間は経ち放課後、俺は中野が指定した部室(写真部の部室)に向ったのであった。そして、古びた階段を上がり写真部と書かれたプレートが張り付けられているドアの前に来たのであった。
 そして、ドアを「トントン」と古びた廊下中に響く、音が鳴りながら俺はドアを叩いたそして、ドアを開け中に入った。
「こんにちは」
 中に入ると、そこには椅子に座って本を読んでいた泉さんがいた。そして、泉さんは俺に気付いて本を閉じて俺に聞いてきた。
「あれ、中野さんは?」
「ホームルームが終わった後、ダッシュで教室を出て行ってどこかに行きましたよ」
「そうですか、どこに行ったんでしょうね」
 と言いながら泉さんは、さっき閉じた本をまた開いて読みだした。俺は、近くに空あったパイプ椅子に座って、窓から見える景色を眺めていた。そして、俺がこの部屋に入って数十分後、突然ドアが破けそうなすさまじい音を立てながらドアが開いた。
「たっ、ただいま!」
 と中野が、廊下中に響く大声で言ってきた。こいつは、本当に加減っていう言葉を知らないんだなと思った。
「お前、どこに行っていたんだ? 俺たち二人をここに置いて行って」
「ごめん、新入部員を迎えに行っていたの、
それで、こんなに遅くなったのよ」
「そうか、それでその新入部員というのは、一体どこにいるんだ?」
「ちょっと待て!」
 と言い残し、中野はまた廊下に出てそして今度は、ツインテールの髪型をした女子と一緒に入ってきた。
「おい、その人が新入部員なのか?」
「そうよ!」
 とにっこり顔をして言った。
「初めまして、一年B組の坂本美咲っていいます。趣味はネトゲーをやったり、アニメやマンガを見るとこです、よろしく!」
 と最後だけ大きな声で言って、坂本さんが挨拶した。
「こちらこそ、よろしくお願いします。俺の名前は……」
 と俺が名前を言うとした時
「ぁ! 君の名前なら、さっき教室で沙紀から聞いたから。こちらこそよろしく」
 なんだ、この敗北感はなんだ。こんなことがあるのかと思った。
「それで、そちらの子があやさんだね。よろしくね」
「あ、よろしくお願いします」
 と泉さんが言うと坂本さんは、泉さんのところに行き泉さんの手を取って握手をした。
「なぁ、坂本さん」
「ん? どうした?」
「坂本さんは、本当にいいんですか? こいつが作る意味不明な部に入って」
 この質問は、この中野沙紀が作る意味不明な部に入る際には、絶対にこの質問をしておかないと後で、後悔されても遅いからこの質問は、絶対に聞いておかなければならない、重要な質問である。
「うん、別にいいよ。どうせ家に帰ってもネトゲーをするだけだし」
 また、オタク的な連れてきたなぁ、あいつは何を基準でここに連れてきているのか、俺にはまったく分からなかった。
「ま、そういうことでこれからみんな仲良くやりましょう。今日は、これで解散!」
 と中野が腰に手を当てて言った。今日のところは、これで解散となったのであった。
 
 そして翌日の朝、またいつもの時間帯にまだ眠たい目を右手でこすりながら、上がっていたのであった。しかし、毎日このきつい坂を上っていると、もっと平地に作ってくれたら良かったのにと、いつも思ってしまうので
あった。
 そして、ようやくきつい坂を登り終え学校がある丘の頂上に着いたのであった。玄関で、上履きに履き替えて俺が所属しているクラスに向ったのであった。
 重い足で階段を上り四階の端っこにある教室に行き、中に入り自分の席に座った。そして、かばんから教科書やらノートを机の中に入れている時、後ろから、頭を叩かれたので後ろを向いた。
「何か用が、あるのか中野?」
 と口を大きく開けてあくびをしながら、中野に言った。
「あんたさ、いつもの事だけど、学校に登校するのいつもぎりぎりよね。なんか理由でもあるの?」
「別に、ただぎりぎりの時間まで寝ていたいだけさ」
 と、俺は自信たっぷりげに言った。
「そう、それでよく遅刻しないものね」
「あぁ、ちゃんと計算しているからな、遅刻するなんてそうあったものじゃないさ」
 と鼻を高くして言った。
「あんた、よくそんなめんどくさい計算するわね。そんなことをしているのなら勉強しなさいっていう話よ!」
「うるさい」
 と、俺は淡々と言った。
「まぁ、そういう事で今日もちゃんと放課後部室に来るのよ」
「へいへい、分かりましたよ」
 と言いた時、グットタイミングでチャイムが鳴ったから俺は、前を向いた。
 そして放課後、俺は小走りで部室に向ったのであった。そして、部室のドアをノックして中に入った。
「あ、こんにちは」
 部室の中には、泉さんがポツンとパイプ椅子に座っていた。
「まだ、泉さんだけか?」
「そうです、中野さんとは一緒じゃないんですか?」
「また、どっかに行きましたよ」
 と淡々と言いながら、俺はかばんを机の上に置き椅子に座った。
「そうですか」
「泉さん、それなんていう名前の本を読んでいるんですか?」
 俺は、泉さんが読んでいる本が気になって、泉さんに聞いた。
「あぁ、これですか、これは『涼宮ハルヒの憂鬱』っていう本です」
「へぇ、それ面白い?」
「ものすごく、面白いですよ。読んでみますか?」
「いや、いいです。俺は、テストに向けて勉強しないとまずいので」
 と俺は、泉さんの誘いを断った。
「そうですか、ぁ! あの、私のことを『泉さん』って言っていますけど、別に『さん』付けしなくても、いいですよ」
 と泉さんは、にっこりとほほ笑みながら言った。
「そうですか、分かりました。それじゃこれからは、『泉さん』じゃなくて『あや』って呼びますけどいいですかね?」
「はい、いいですよ」
 と二人で話していた時、部室のドアが開き誰かが入ってきた。
「おーっす、あれ二人だけ?」
 入ってきたのは、坂本だった。そして、ドアを閉めてあやの隣に座った。
「ん? あや、それ何の本読んでいるの?」
 坂本が、泉が読んでいる本を覗き込んで泉に聞いた。
「これ、『涼宮ハルヒの憂鬱』っていう本ですけど」
「あやって、ラノベ読んでいるんだ!」
「はい、前から結構読んでいますよ」
「へぇ、そうなんだ! その本読み終わったら、私に貸してくれる?」
「いいですよ」
 と、泉はにこやかに言った。
「ありがとう、その本前から読んでみたくてね、私、ハルヒのファンだからさ」
「そうなんですか、じゃあ明日には貸しますね」
「ぇ! そんなに早く読めるの!」
「あと少しで、読み終わるんで」
 と二人が、本に関する話していたころ、俺は机に教科書やらノートを広げて中間テストに向けて、猛勉強していたのであった。途中、坂本に「がんばっているね」と言われたが、俺は、ろくに返答もせずに勉強していた。二人が、ライトノベルの話やアニメの話をして盛り上がっていたが、俺は、入試の模試の判定で合格確率がDなのに、その高校に合格するために猛勉強している中学生のように勉強していた。それほど、今回の中間テストの結果に自信がないということだ、特に数学あたりが。
「ねぇ、沙紀はいつ来るの?」
 坂本が、猛勉強中の俺に聞いてきた。
「分からねえなぁ、もうこんな時間か」
 時計を見ると、下校時間をとっくに過ぎていた。
「そろそろ帰りましょうかね。ここの鍵は、俺が閉めておきますので」
 と俺は言いながら、時計を見た。
「そう、それじゃあお先に失礼するね。あや、今からちょっとツタヤに行かない? ちょっと、欲しいマンガがあってさ」
「いいですよ」
 と、泉は笑いながら言った。
「それじゃあ、行こうか」
 と言いながら、二人は部屋から出て行った。
 そして、俺は二人が出て行ったのを見送ると机に広げていた、教科書やノートをかばんに入れて、窓の鍵を閉め、かばんを肩に掛けドアの鍵を閉めて、俺は学校を後にした。
 
 翌日の朝、俺が学校に行き教室に入り自分の席に座ると、俺の後ろの席にいる奴が、俺の頭を叩いた。
「っいた! 何するんだ!」
 俺は、後ろを向いて言った。
「何じゃないわよ、あんた、昨日は誰の許可をもらって帰ったのよ!」
中野は、口を尖らせて言った。
「お前が来なかったから、俺が帰宅してもよしっていうのを二人に許可したのさ。時間も遅かったからな、その前にお前、昨日は一体どこに行っていたんだ?」
「昨日は、新入部員になりそうな人を説得していたのよ。その人が、なかなか『うん』と言ってくれなくてね、説得するのに本当に苦労したわよ」
 中野は、腕を自分の胸の前で堂々と組んで自信たっぷりげに言った。
「それで、今日その人を部室に連れて行くから、今日は絶対に帰っちゃだめよ! いいわね! 絶対よ!」
 と朝っぱらから、こんなやり取りがあり俺は今、部室にあるパイプの部分が錆びたパイプ椅子に、座っているのであった。
「あの、中野さんはまだ来ないのですか?」
 泉が本を読みながら俺に聞いてきた。本当に、本が好きなんだなと思った。
「たぶん、新入部員となる人を強引に引っ張って来ていると思う」
「そうですか、どんな人でしょうね?」
「さぁ、俺にはまったく、見当もつきませんよ」
「こんにちは!」
 と元気がいい声をしながら、坂本が部屋に入ってきた。
「あれ、沙紀は?」
「今、新入部員となる人を連れて来ていると思う」
 と俺は、淡々と坂本の質問に答えてやった。
「そう、ぁ! あや、昨日の深夜に放送してた、『けいおん』見た?」
「はい、見ましたけど途中で寝てしまいました」
「まぁ、あんなに夜遅く放送していたしね、眠くなるのは当たり前か」
「はい、でも『ふわふわ時間』の演奏シーンなら見ましたよ」
「あれ良かったよね、面白い歌詞だったし」
 と二人が、昨日の夜に放送された深夜アニメの事を話して出した。二人がそんな会話をしている一方、俺はというと机に勉強道具を広げて、教科書に書かれていた問題をノートに書き、そしてその答えをノートに途中の式を含めて書いていた。そして、坂本が入って来て、九分くらい経過したとき突然、前触れもなくドアが壊れそうな大きな音を立てて、ドアが開いた。
「ヤッホー! みんないる?」
 中野が、まるで今まで働いていた会社からリストラの宣告を受けて、途方に暮れているときに気晴らしの気持ちで宝くじを買って、そのくじが一等の3億円を当て一発逆転をした時の、喜んだ表情をした顔をして言った。
「みんな、今日から新しくこの部に入ってもらうことになった……」
 と途中まで言うと、中野はまた部屋から出て今度は、背の高い男子を連れて入ってきた。
「高野拓実君よ、みんなこれから仲良くやるのよ」
 と中野が、簡単な紹介をした後その紹介された本人自ら、自己紹介した。
「初めまして、1年A組の高野拓実です。どうぞ、よろしくお願いします」
 と高野が言った後
「こちらこそ、よろしく」
 と俺は言い、少し頭を下げた。
 俺がそうしている間に、中野は部屋の奥へと行き、窓の近くまで行き俺たちがいる方向を振り向いって、俺たち4人に言った。
「これで、ようやく5人揃ったわね、それじゃあ今から、この部が一体どんな活動をするか言うわね」
 そう言うと今度は、黒板がある方に移動し近くにあった短い白色のチョークを持って、黒板に文字を書きながら俺たちに言った。
「この部は、面白いことを探し出したりオカルト的なことを調査したり、まぁ、他にもいろいろなことをする部よ!」
「また、ずいぶんとおおざっぱな、部だな」
 と俺は、誰にも聞こえないほどの小声で呟いた。
「んじゃ、今日はこれで解散ね! 明日もちゃんと来るように! それじゃ」
「おい、明日からはテストだぞ。みんな、テストに集中したいだろうし、テスト期間の間はテストを受け終わったらすぐに学校を出なきゃいけないのに、どうやって明日、集合するつもりなんだ?」
「ぁ! 忘れていたわ。それじゃ……、テスト期間が終わったらまたここに、集合ってことでいいわね」
 と言い残し、中野は自分の荷物を持って、部屋から出て行った。

 季節は夏になりかけの梅雨、いつもは雨がうるさく音を立てて降っているが、今日は珍しく日本晴れだった。だが俺の心の天気は、大型の台風が襲来していた。
「はぁ、やっぱりな」
 と、俺は自分の席に座って机の上に並べている、赤色のペケのマークがいっぱい付いていた、中間テストの答案用紙を見て俺は溜息をついていた。あんなに、勉強したのに結果は散々なものだった。
「ねぇ」
 後ろから、声を掛けられたので俺は後ろを振り向いた。
「なんか用か?」
「テストの結果、どうだった?」
 中野が、俺のテストの結果を聞いてきた。
 俺は、机の上に広げていた答案用紙を机の中に、グシャグシャに入れて苦笑いをしながら
「まぁ、平均点くらいだったかな」
 と俺は中野に、嘘の結果を言ったのであった。本当の結果は、赤点ぎりぎりの点数だった。あんなに必死に寝る間を惜しんで勉強したのに、結果は答案用紙の七割が赤いペンで間違ったときに着く、定番のマークがついていたのであった。
「そう、だったらいいわ。もしも、赤点なんか取っていたら、殴り飛ばしていたわよ」
 本当のことを言わなくて本当に良かった、もし本当のことを言っていたら、今頃、保健室のベットの上で気絶しているだろう。
「それで、そういうお前の結果はどうだったんだ?」
「ぇ? 私は、この通りよ」
 そう言って中野は、机の中にしまっていたテストの答案用紙を出して、机の上に並べたのであった。
「お前、これはなんの冗談だ?」
「冗談じゃないわよ、これが私の実力よ!」
 中野が、自分の自慢話をして偉そうな顔をして言った。だが、俺はそんなのどうでもよかった、そんなことよりも今俺の目に映っている文字が気になった。中野の答案用紙すべての点数の十の位に、『9』という文字が書かれていた。何度、目をこすってもほっぺたを摘まんでも頭を叩いてもその『9』という文字は、変わらなかった。
「お前、よくこんな点数取れたな」
「なに言っているのよ、これくらいの問題簡 単じゃない、ほとんど中学の時に習ったことがある、問題だったじゃない」
 たしかに、中野が言う通り今回の中間テストの問題の八割は、中学校の時に習った単元が多く出ていたが、べつにそこまで言う程簡単じゃなかったぞ。さらに、それにプラスして高校で習ったことが少し出ていたが、それを簡単という単語で済ませるなんて、こいつの頭の中は一体、どうなっているんだと思った。
「簡単って、この問題が?」
「そうよ、こんなの二十分くらいで終わるじゃない」
「二十分! お前、中学の時に塾とかに通っていたのか?」
「あんなの、ただの時間の無駄じゃない。学校で一回習ったことをどうしてわざわざ、そんな塾とかでまたやんなきゃいけないのか、私にはよく理解できないわ。それだったら、もう学校なんかいらないじゃん」
 と中野は、自分が主張する塾反対論を述べたのであった。
「まぁ、そうなんだが。ほら、学校で習ってもいてもたまに分からないことだってあるだろう、だから、その苦手な部分を克服するためにそういう塾とかに、通っているんじゃないのか」
 と俺は、塾の存在が必要だという側の主張を代弁したのであった。
「ふうん、それじゃ聞くけどあんた、中学の時に塾とかに通っていたの?」
 と、中野は首を傾けて聞いてきた。
「中学二年の春から今年の二月まで行っていたけど」
「それで、効果はあったの?」
「あぁ、大有りだったさ。テストだって、入る前と後とでは大違いだったさ、いつも九十点代を取っていたなぁ」
 と俺は、鼻を高くして自分の自慢話を高らかとした。
「そう、それはよかったわね」
 そう言うと中野は、顔を窓の方を向け窓から見える景色を眺めていた。どうやら、こいつはただ俺が塾に通っていたか、どうかを知りたかっただけで後のことはどうでもよかったのであろう。ただ、どうしてかは俺には分からなかったが、窓から見える景色をただじっと見ている中野の姿は、どこか寂しげな感じがした。気のせいかも知れないが、本当にそんな感じがしたのであった。

 それから時がたち、放課後になった。俺は荷物を自分のかばんの中に入れて、教室から出て部室へと向かった。そして、部室へと向かっている途中に職員室に入ろうとする高野の姿が見えた。
「よ、お前なにやっているんだ?」
 俺は、高野に声をかけていた。
「あ、どうも」
 といい、高野は頭を少し下げた。
「今日は、僕が日直の日でしてね。今から先生に日誌を渡しに行く途中だったんです」
 と言い、高野は右手に持っていた日誌を俺に見せてきた。
「そうか、それはご苦労なこった」
「いえ、これも仕事ですからね。ぁ! 中野さんに、まだ日直の仕事が残っているので今日は、少し遅れますって言っておいてください」
 と高野は、にこにこと笑いながら言った。
「あぁ、そう中野に伝えておくわ」
 と俺は高野に言い、部室に向ったのであった。
 別校舎へと行く渡り廊下を小走りで通過して、古びた木製の階段を一段飛ばしで上がり、部室がある階に着き、歩くだけで床から音が鳴る古びた廊下を歩き、『写真部』と書かれたプレートが掲げられているドアの前に着いたのであった。ドアの向こうからは、坂本と泉が話している声が聞こえた。そんな二人の声を聞きながら俺は、なぜか理由もないのに二回ほど深呼吸をして、ドアノブに手を掛けてドアを開けたのであった。
「こんにちは」 
 と俺があいさつをしながら入ると、部屋の奥にいた中野が俺に気付き俺のとこまでスタスタと歩いて来て、怒った顔を俺に見せて
「遅い! 何やっていたのよ!」
 と、鼓膜が破けそうな大声で俺に言ってきた。
「悪かったな、高野と少し話していたんだ」
 俺は、肩にかけていたかばんを机の上に置きながら言った。
「それでも、遅すぎるわよ! あとで、遅刻 の罰として罰金をもらうからね」
 中野は、俺の顔に向けて指をさして言った。そして、また最初にいた場所に戻り
「それで、高野君はどうしたの?」
 と俺に、聞いてきた。
「今日は日直で、まだ仕事が残っているから遅れてくるってさ」
「そう、それじゃあしょうがないわね」
 と言うと中野は、部屋の奥にある窓から見える海を眺めていた。
「よっこいしょ」
 と言いながら、俺はパイプ椅子に座った。そして、頭を上げて部屋の天井を見て再び前を向いた。そして、俺は目の前に座っている泉にテストの結果を聞いた。
「あや」
「何でしょうか?」
「今回の中間テストの結果はどうだった?」
「まぁ、そうですね。数学がちょっと、悪かったくらいですかね」
 と泉は、苦笑いをしながら言った。まぁ、泉のことだ、悪かったといっても俺と比べたらその差は、圧倒的なものだろうと俺は心の中で思った。
「坂本は、どうだったんだ?」
 今度は、泉の横に座っていた坂本にテストのことを聞いた。
「私もちょっと、自分で予想していた点数よりも悪かったな」
 と言いながら、坂本は自分のかばんから中間テストの答案用紙を机の上に広げた。
「坂本よ、これはマジか」
 俺は椅子から立ち上がり、自分の目を疑った。坂本が机の上に広げた答案用紙の点数すべての十の位に八という文字が書かれていた。
「まぁ、一夜漬けだったしね。しょうがないっか」
「一夜漬けで、こんなに取ったのか?」
 と俺は、目を大きく開けたまま腰を抜かして椅子に座った。
「私、普段から一夜漬けで乗り越えてきたけど、さすがに高校じゃ通用しないね」
「へぇ、すごいじゃない美咲!」
 とさっきまで窓から見える景色を見ていた中野が、俺の横からしゃしゃりでて言った。
「ありがとう、沙紀」
 と、坂本は嬉しそうに笑いながら言った。
「それに比べて、あんたに赤点ぎりぎりってどういうことよ」
「っな! ど、どうしてお前、俺の点数を知っているんだ?」
 俺は動揺した。たしかあの時、俺は中野に嘘をついて平均点くらいだと言ったはずなのに、なぜこいつは俺の本当の点数を知っているのか、疑問に思った。
「私が、教室を出て行った後教室に、忘れ物があって戻ったのよ。それで、教室に行って忘れ物を取って部室に行こうとしたら、窓から風が吹いて、あんたの机の中からなんかの紙が落ちたのよ。それでなにが落ちたかなぁって思って拾ったら、赤点ぎりぎりのあんたの答案用紙だったのよ」
 不覚、一生の不覚だ。親にばれないようにと思って、学校に置いて行ったのが間違いだった。あのまま、家に持って帰って隠しておけばよかったと俺は、今更遅いが後悔をした。
「本当に、あんたには呆れたわ。あんたが、そこまでのバカだとは思わなかったわ」
 中野は、呆れた顔を俺に見せて言った。
「うるさい、今回は山が外れただけだ」
「あんた、そんなことだからそんな点数を取るのよ」
「どうも、遅れてすいません」
 と高野が、ドアを開けて部屋の中に入ってきた。
「ぁ! 高野君。ねぇ、テストの結果はどうだった?」
「テストですか?」
 と高野は、もう一度中野に聞いた。
「うん」
 中野は、普段めったに見せない笑顔で言った。
「まぁ、そうですね。ほとんど八十点代でしたけど」
 と少し、自信がないような感じで高野は言った。
「ほら、高野君だってこんなに高得点取っているのに、どうしてあんたは赤点ぎりぎりの点を取るのよ!」
「悪かったな、そんな点を取って」
「はぁ」
 と中野は、溜息をついた。
「ねぇあや、今日あやの家に行ける?」
「はい、別にいいですけど、でも、どうしてそんなことを聞くんですか?」
「みんな、自分の荷物を持って、今からあやちゃんの、家に行くから」
「おい待てよ、どうして今からみんなであやの家に行くんだ? 理由を教えてくれ」
 俺は、中野に聞いた。どうして突然と、泉の家に行くのか、俺には分からなかった。
「今から、あやの家に行って臨時の勉強会をするのよ。あんたが、そんな点数をとるからでしょう!」
「じゃあ、別にあやの家じゃなくてもお前の家とか俺の家でもいいんじゃないのか?」
「いいじゃない、あやが良いって言っているし、部員の家はみんなが知ってないといけないでしょう」
 いや、別に知っていなくても別にいいと思うのは俺だけだろうか。
「まぁ、そういうことで今からあやの家に行くから、みんな自分の荷物を持って玄関に集合ね」
 と中野は言い、今から泉の家に行くことになったのであった。

 それから数分後、全員が荷物を持って玄関に集合したのであった。
「全員いるわね、それじゃあやの家に向けて出発!」
 と中野が、まるで小学生がテストで百点を取ってその答案用紙をお母さんに見せて大喜びしているような顔をして言った。
「やれやれ」
 と俺は、小声で呟いた。
「泉よ」
「何でしょうか?」
「お前の、家って学校から近いか?」
 俺は、泉に聞いた。ま、俺は遠くても近くてもどっちでもいいのだが、念のために、聞いたのであった。
「はい、すぐに着きますから」
 と泉は、かわいらしく微笑みながら言った。
「そうか」
 学校から近くて、良かったと俺は思った。

 玄関で集合した後、毎朝重い足で上っている坂道を下り、途中、俺が自転車を停めている駐輪場に立ち寄り自分の自転車を引き取り自分の荷物を自転車のかごに入れて、自転車をついて歩いたのであった。そして、歩いている途中に、交差点の歩行者信号が赤になり足を止めた時、俺は横にいる高野に声をかけた。
「そう言えば、高野よ」
「はい」
「お前は、自転車で学校に来てないのか?」
「別に、自転車で来るという程遠くではないので、いつも歩いて来ています」
 とにこやかに笑いながら、高野は言った。
「なるほどな」
 俺がそう言った瞬間、歩行者専用の信号が赤から青に変わったので、また歩き出したのであった。それからちょっと歩いて少し住宅地が多くあるところの地域に来て、そこからほんの少し歩いたくらいで泉が
「みなさん、着きましたよ」
 と言った。学校から出てたった、数分という短い時間で泉の家に着いたのであった。どんだけ、近いんだよと俺は思った。
「へぇ、ここがあやちゃんの家なんだ。結構でかいわね」
 と中野は、泉の家の大きさに驚いていた。
 泉の家は、まるでバブル経済の時代に株や不動産で大儲けをした大金持ちが住んでいそうな大豪邸だった、庭も野球ができそうな広さだった。
「どうぞ、入ってください」
 泉がそう言うと、泉は玄関のドアを開けたのであった。
「おじゃまします!」
 と中野が言って入った後、高野と坂本も中に入って行った。俺は自転車を車庫と思われる場所に自転車を停めてから中に入ったのであった。
 家の中に入ると、泉は二階に俺たちを通してくれた。そして、泉は階段のすぐ横にある部屋のドアを開けた。
「どうぞ、入ってください」
 と俺たちをその部屋の中に入れた。部屋の中は、あんがいシンプルな感じがしたのだが、俺は本棚を見て自分の目を疑った。本棚にはライトノベルと思われる本がぎっしりと詰め込まれていた。しかも、その本棚に入りきらなかった本が、本棚の横に山のように積まれていた。
「ものすごい、本の量だな」
「これは、僕も驚きました」
 と高野が、いつもはにこやかに笑っているのだが、さすがにこの本の量には驚いたらしい。
「あやさん、ここには何冊くらいあるのですか?」
 高野が、泉に聞いた。
「そうですね、たぶんだけどざっと三百冊くらいは、あるかな」
「さ、三百冊! そんなにもあるのか!」
 俺は、泉が所有している本の量に驚いた。
 まさか、ライトノベルの本を三百冊も所有しているなんて、俺はまったく思ってはいなかった。
「へぇ、あやちゃんって、こんなにも本が好きなんだ」
 と中野が、本棚にぎゅうぎゅうに1ミリも隙間なく詰め込まれている本を見ながら、言った。
「はい、特にライトノベル系の本が好きですね」
「へぇ、そうなんだ。ぁ!」
 中野が、部屋の壁に掛けられていた時計を見て声を上げた。
「やだ、もうこんな時間じゃない! さっさと勉強を始めないと時間がなくなるわ、みんな勉強道具を出して、今から二時間ぶっとうしで勉強するから、覚悟しなさいよ」
 こうして今から二時間の間、俺にとっては地獄の猛勉強会が始まったのであった。
 
 それからというもの、高野や泉はもくもくと勉強しているのに、坂本は本棚にあるライトノベルの本を取って目を凝らして、読んでいた。
「おい、中野よ」
「なに?」
「坂本は、本を読んでいてもいいのか?」
「別にいいわよ、あんたほどバカじゃないから。ほら、そこの問題。あほでも分かるような問題あんた間違っているわよ」
 と中野は、俺が汗水たらして解いた問題の答えを否定したのであった。
「一体、どのあたりが間違っているか説明してくれ」
「まったく、しょうがないわね。いい、ここの方程式の求め方が違うでしょうが! ここの解き方は中学の時に習ったでしょう」
 と中野は、俺が書いた解答欄のところに赤いペンで間違ったところに修正を加えながら説明していった。俺は、それを聞いてただ首を縦に振っていかにも分かっている風に行動をした。ま、実際のところはまったく理解していなかった。もう、俺の頭で理解するには限界であった。
 
中野が開催した、この勉強会は俺たちが泉の家に着いてから二時間休まずにやらされたのであった。その間俺は、中野に耳元で鼓膜がやぶれそうなでかい声を聞かせながら、中野に教えてもらっていたのであった。
「あんた、これだけ私が教えたのになんで理解できないの?」
 と中野が、呆れた顔をして疲れきった目をして言った。
「理解できなくて、悪かったな」
「……はぁ」
 中野が、溜息をついて壁に掛けられていた時計を見た。時計の針はもう六のところを指していた。
「もうこんな時間か、これ以上あやちゃんの家にいたら迷惑もかかるし、今日はもう解散しましょう」
「そうだな、それじゃ帰りましょうかね」
 と言いながら、俺が机の上に広げていた勉強道具を片付けようとすると
「それじゃ、高野君と美咲は自分の家に帰っていいから」
 俺は、自分の耳を疑った。中野が言った帰ってもいい人の中に、俺の名前が含まれてはいなかった。
「中野さんよ、俺も帰ってもいいんだよな……?」
 と俺は、今後起きるいやな予感をしながら中野に聞いた。
「あんたの頭のレベルには本当に呆れたわ、だから、あんたは今から私の家に来てもらっ学力向上のためにもっと勉強してもらうから」
「おい、ついさっきまで通常の二倍くらい勉強したのに、今からお前の家に行ってさらに勉強しなきゃいけないのか」
「そうよ、次のテストで良い点数を取らないとあんたの夏休みがなくなるのよ、それでもいいの?」
 中野がそう言うと俺は反射的に
「いやだ」
 と言った。さすがに夏休みを奪われたら、俺の人生が終わってしまう。もしも、夏休みが奪われたら夏休みの間はエアコンもなく扇風機もない、地獄絵図に出てくる灼熱地獄のように暑い教室で汗をだらだらと流しながら補習を受けなきゃいけないのかと思うだけで心の奥底からぞっとする。
「いやでしょ、だから私が次の期末で良い点数を取れるようにみっちりと教えてあげるから!」
「そ、そうだな、さすがに次のテストで落としらまずいよな」
「そうでしょう、だからさっさと片付けなさいよ」
 と中野が言っていると、高野と坂本がドアの近くに立って高野が
「それじゃ中野さん、僕たち二人はお先に帰りますね」
「うん、それじゃ高野君と美咲、また明日」
 中野がそう言うと、高野は少し頭を下げて部屋から出て行った。
「また、明日ね」
 と言い残し坂本も部屋から出て行った。
「ほら、私たちも行くわよ」
「あぁ、分かった」
 と言って、俺と中野も高野と坂本が部屋から出てから数分後に部屋から出て行ったのであった。そして、二階から一階に降りて玄関で靴を履いていた時、後ろから泉が
「勉強、頑張ってくださいね」
 と俺の耳元でささやいてくれた。
「あ、ありがとう」
「それじゃ、また明日ね」
 とにこにこと微笑みながら泉は言い、そして二階へと上がって行った。
「何やっているの、早く行くわよ!」
 中野は、不機嫌そうな顔をして言いまだ靴もろくに履けていない状態の俺を置いて先に外に出たのであった。
「おい、ちょっと待てよ」
 と言いながら俺は、まだ途中まで結んでいた靴ひもを強引に靴の中に押し込んで玄関から出たのであった。
 泉の家の玄関からまだ靴もろくに履けていない状態のまま出て、俺は自転車を停めていた車庫と思われる場所に向った。そして、その場所に行くと中野が自分の荷物を俺の自転車のかごのところに入れて立っていた。
「ほら、さっさとしなさい」
「あぁ、分かった」
 と言うと俺は、自転車のかごに自分の荷物を入れてサドルに腰を掛けペダルに足を乗せていざ、こぎだそうとした時、中野が
「ちょっと、待って!」
 と言い、自転車の荷台のところに乗ったのであった。
「中野よ、俺、あまり二人乗りをして自転車を漕いだことがないから、どうなっても俺は知らないぞ、それでもいいのか?」
 俺には、二人乗りで自転車を漕いだことがあまりないのだ。中学の時に一度だけやったことがあるがその時は、バランスを崩しておもいっきり転倒したという何とも言えない、苦い思い出がある。
「別にいいわよ。歩いていたら時間がかかるし、それに……」
「それに?」
 中野は顔を下に向けて黙りこんでいた。俺は、少しだけ顔を後ろ向けて俯いている中野の姿を見てまた顔を前に戻して
「……ま、お前が良いって言うのなら別にいっか」
 と指で鼻の先を触りながら言った。
「そ、そうよ! 分かったのならさっさと行きなさいよ!」
「はい、はい、分かりましたよ」
 と言って、俺は自転車をいつバランスを崩していつ転倒するか分からないほどの、蛇行をしながら漕ぎ進めたのであった。

自転車が蛇行しながら走っているその間、中野は自分の自宅へ誘導する以外は何も喋らずに、長い髪の毛をまとめたポニーテールを自転車の風で揺らめかせながら、手で俺の腰をぎゅっと抱きしめて俺の背中に頭を当てていた。俺はそれも何も言わずに、ただ中野に指示した方向へと自転車を漕いでいたのであった。そして信号で止まった時、俺は中野に聞いた。
「お前、さっきから俺の背中に頭を当てていたけど大丈夫か? 頭が痛いのか」
「な! そんな訳ないでしょう、頭が痛かったらあんたなんか家に呼ばないわよ!」
 最初の方は、顔を真っ赤に染めて驚いた顔をしたが最終的には、普段の中野に戻ったのであった。
「ほら、信号変ったわよ」
 と中野は、信号の方を指さして言った。俺は、なんとなく深呼吸して自転車を漕いで前に進めたのであった。
 泉の家から出て数十分経過して、俺と中野は海沿いの県道を走っていたのであった。俺の家とは全く逆方向へと向かって自転車を漕ぎ進めていたのであった。そして、海沿いの道を抜けて住宅がある港町の小道へと中に入って行ったのであった。
「おい、中野よ」
「なに?」
「あとどれくらいで、お前の家にたどり着けるんだ?」
「もうすぐ着くわよ」
 と言ってからしばらく複雑な道を曲がったりしていると、中野が突然
「着いたわよ!」
 とまだ俺が自転車を漕いでいたのに中野はさっと自転車から降りて、その場に立っていた。
「着いたのなら、もっと先に言えよ」
 俺は自転車を止めて、中野が立っている場所に行った。
「ここが、お前の家なのか」
 家を見てみるとどこにでもありそうな二階建ての一般的な家だった、さっきまでいた泉の家と比べると差は少しあるが、そんなに狭そうな家には見えなかった。
「そうよ、自転車は玄関の横の所に停めてから中に入ってよ」
「分かった」
 と言って俺は、自転車を中野が指示した場所に停めてから家の中に入ったのであった。
「お邪魔します」
 家の中に入ると、中野は二階へと俺を通してくれた。そして階段を上がり二階に着いて廊下をちょっと歩いて一番奥にある部屋へと来た。
「先に部屋の中に入っていて、ちょっとお菓子とか取ってくるから」
 と言って中野は、階段を降りて一階に降りて行った。
「あぁ、分かった」
 と言って俺は部屋のドアを開けて中に入った。部屋の中は、勉強机の上にデスックトップ型のパソコンが、置いてあった。そして壁際には本棚やタンスやらいろいろな家具が置いてあった。
「あんがい、普通の部屋だな」
 と独り言を言いながら、俺は部屋の中央に置かれていた卓袱台より少し小さい目の机の上にかばんを置いて、机の横に座って壁に掛けられていた時計を見た。
「もう、七時か。母さんに今日は遅くなるってメールしよう」
 俺は携帯電話をかばんから取り出して、母さんに遅くなるというメッセージを打って、母さんの携帯電話に送信した。『送信しました』という表示を確認してから、携帯電話をかばんの中に入れた時、部屋のドアが開き髪の毛が長くストレートの髪型をした女の子が入ってきた。
「ほら、お菓子持ってきたわよ」
「……」
「なに口をポカンと開けているのよ、なんか私の顔に付いているの?」
「中野……沙紀……だよな?」
 と俺は、その女の子から発せられた声で俺は中野だと判断したが、当たっているかは自信がなかった。
「そうよ、誰だと思ったの」
 中野は少し怒り、持ってきたお菓子の袋を机の上に置いて、俺とは逆の方に座った。
「いや、いつもお前髪型がポニーテールだか ら……一瞬、誰か分からなかった」
 俺は、中野に申し訳なそうな感じで言った。
「まったく、あんたもまだまだね! 髪型が少し変わったくらいで、分からなくなるなんて」
「分からなくて……悪かったな」
「ま、別にいいけど。ほら、あんたも食べなさい! 食べた後は、みっちりと勉強するからね!」
 と言って、中野はお菓子の袋を取ってハサミで袋を切って、中に入っていたお菓子を取って手にとって口に運んで食べた。
「これ、食べた後にまた勉強するのか」
 と言いながら、俺は袋の中らお菓子を取って食べた。
「それが目的で私の家に来たんでしょうが、それくらいこと分かっていなさいよ」
「そうだったな、すっかり忘れていたぜ」
「あんたって、本当にバカね」
 と中野は、呆れた顔をして言った。
「バカで、悪かったな」
 と言って、俺は再び袋からお菓子を取って食べた。
「そういや、中野よ」
「なに?」
「こんな夜遅くに、俺がお前の家に上がり込んでいても大丈夫なのか? お前の親は良いって言っているのか?」
 と中野に聞いた。こんな夜遅くに男子が女子の家に上がり込んでいるのに、それに対してなにも言わない親など俺は聞いたことがなかった。
「別にいいわよ、今日はお父さんもお母さんも出かけているから」
「そうなのか」
 俺は、お菓子を食べながら言った。
「お父さんは出張で、お母さんは同窓会に行っていて家に帰るのは明日の朝だって、今日の朝に言っていたのよ」
 と中野は、俺の顔を見ながら言った。
「へぇ、そうなんだ」
 と言って俺は、袋の中に入っていた最後のお菓子を取ってそれを食べた。そして、お菓子を食べながら俺は中野の顔を見た。改めて中野を見ると、いつもとはまったく違う雰囲気を感じてしまう。いつもはポニーテールの髪型しか見せない中野の髪型が今、いつも束ねている髪の毛をほどいて腰まで伸びている髪の毛がストレートに伸びている。そして、顔付きも学校で見ているいつも退屈そうで不機嫌そうな顔とは違い、にこやかでこの世を満喫していそうな顔をしていた。それほど家が落ち着く場所なのかと思った。ま、とにかく顔付きや髪型が変わったせいかは分からないが、中野が普段学校で放っている変人奇人な雰囲気とはまったく違う、別の雰囲気を感じてしまう。
「ほら、なにぼんやりとしているのよ。もうお菓子も食べたから勉強、始めるわよ」
 中野は言いながら、机の上にあった空になったお菓子の袋をゴミ箱に捨てて、本棚から問題集やら教科書を持ってきて机の上に置いた。
「あぁ、そうだな」
 と小声で言って、俺はかばんから数学や英語の教科書やワークを取り出して机の上に広げて、期末テストに向けて勉強を始めた。
 それからというもの、俺は真面目に勉強に取り組んだ。苦手教科の数学と英語を特にがんばった。この前の、中間テストではこの二教科だけがあと三点取っていなければ、今頃追試に向けて勉強しているだろう。だから、次の期末テストではそんなことがあってはいけないのだ。もしも、期末テストで赤点を取ったら俺の夏休みは地獄絵図に出てくる灼熱地獄のように暑い教室で補習を受けなければならない、しかもそれがほぼ毎日と続くのだから補習を受けている途中に、脱水症状と熱中症で倒れて保健室のベットの上で寝ているのが目に見えている。
「ほら、そこの単語のスペル間違っているわよ」
「あれ、こうじゃなかったけ?」
「全然違うわよ、ここはこれじゃなくてこれよ」
 中野は言いながら、赤ペンで俺が間違って書いていた単語を赤く潰してから、その下のところに正しい単語を書いた。
「そうか、そこが間違っていたのか」
「まったく、あんたもう一回中学やり直したらどう? この問題、中学一年レベルの問題よ。それを間違えるなんて、あんた本当にバカ」
「バカで悪かったな」
「はぁ……」
 と中野は、呆れた顔をして溜息をつきながら勉強机の方を振り向いて机の上の置かれていた置時計を見た。
「もう、勉強を始めてからもう一時間かちょっとだけ休憩しましょう」
「そうだな、少しだけ休もう。勉強し続けて肩のあたりが少し痛むし」
 と言って俺は、右手に持っていたシャーペンを机の上に置いて、右手を左肩においた。
「……ねぇ」
 中野は、少し顔を赤くして恥ずかしそうに俺の顔をちらちらと見ながら言った。
「ん?」
「あんたさ、今、私のことをどう思っているの?」
「……はい?」
 俺は、一瞬思考が停止した。まさかこんなことを聞かれるとは、まったく予想をしていなかった。
「だから、私のことをどう思っているか聞いているのよ」
「そ、そうだな……」
 俺は、この質問をどう答えたらいいか分からなかった。
「ねぇ、どう思っているの?」
 と言いながら中野は、自分の顔を俺の顔に近づけて昭和の熱血刑事が取り調べ室で、犯人を自白まで追いつめているような感じで追求してきた。
「……」
 俺は、何も言わないまま黙りこみ考えた。改めて、真剣に考えてみると俺は普段中野のことをどう思っているは分からなかった。最初、初めて教室で中野を見たときは文学少女みたいなと思っていたが、その予想を180度変えたどこかのアニメで言っていたような自己紹介を聞いてから俺は、アニメ好きの子だと思ったが、その後で中野と話して、あいつはただこの世を飽き飽きしていて何か面白いことがないかって教室の窓から見える外の景色を眺めて考えている。例えるのなら『涼宮ハルヒの憂鬱』に出てくるハルヒ的なポジションにあたる印象を感じた。
「それじゃ、逆に聞けど中野よ。お前は俺のことをどう思っているんだ?」
 俺は中野に対して、質問返しという方法で自分が中野のことをどう思っているかの答えを考える時間を稼いだ。
「ぇ! それは……」
 俺は真剣な目付きをして中野の顔を見ながら言った。まさか、逆に質問されるとは思っていなかったから中野は、動揺して顔を下に向けて黙り込んだ。それから数分間、俺たち二人はお互いの顔を見ながら黙っていた。そして中野は、今まで閉じていた口を小さく開けて聞こえるか聞こえないか分からないくらいの小声で
「……バ……カ……」
「なんだって?」
 俺は、聞き取れなかったから中野がなんて言ったかもう一度聞いた。
「バカって言ったのよ!」
 中野は、顔を真っ赤にして言った。
「ぇ?」
 俺は、呆気にとられた顔をして言った。
「だから私は、あんたのことを人類史上とは言わないけど、私が今までに知ってきた人の中では、相当のバカね! これほどのバカは生まれて初めて見たわ!」
「そうか……」
 俺は苦笑いをしながら言った。そして、机の上に両手を置いて頭を天井の方に向けて天井を眺めた。この時俺は、目からこぼれそうな涙をなんとか流さないようにがんばっていた。まさか、どう思われているかという質問で『バカ』っていう言葉が出てくるなんてまったく思っていなかった。
「でも……」
 と中野が斜め左下に顔を横に向けて、恥ずかしそうに俺の顔をちらちらと見ながら言った。
「……でも、私はそういうバカって嫌いじゃないわよ。バカって結構、面白いし」
「中野……」
 と言って俺は、中野の顔をいつも以上に目を大きくして見た。
「さてと休憩はこれくらいにして、そろそろ勉強始めるわよ」
 と言って中野は、パソコンが置かれている勉強机からシャーペンの芯が入っているケースを取って来て、さっきまで座っていたところに座って、勉強再開となった。
 休憩時の中野との会話から、数時間経っていた。その間、俺は必死に勉強した。数学の方程式は中野の助言を聞きつつ解いていった。英語は、単語のスペルをしょっちゅう間違いながら問題集にある日本語を英語に訳していった。そして、英語を日本語に訳していった。英語から日本語に訳すのは、簡単だったが日本語から英語に訳すのは結構難しかった。単語がなかなか思い出せずにその文章にあっていそうな単語を書いたが、そこは中野が赤いペンで線を引いて間違っているところを修正し説明した。俺はそれを真剣に聞いていた。 
 俺は自分の夏休みのためにそして、俺はそんなにバカじゃないっていうことを証明してやるという新たな目標を抱き、手に力が入らないほど猛勉強した。
 そして、数学・英語の問題集をすべて解き終わり俺がシャーペンを机の上に置いた時中野が
「これだけ、解けば何とか期末は乗り越えられるわね。あんた、私がこれだけプライベートの時間を削って教えたんだから頑張りなさいよ! 赤点なんか取ったら罰金どころの話じゃないわよ!」
「あぁ、分かっているさ。次の期末は、中間の数倍の点数を取ってやるさ」
 と俺は高らかに、次の期末テストでは中間テストの点数より数倍の点数を取ると宣言したのであった。
「もうこんな時間だし、あんたそろそろ家に帰ったら? 親御さんも心配しているだろうし」
 と中野が言った後、俺はかばんから携帯電話を取り出して時計が表示されているところを見た。
「もう九時か、三時間も必死に勉強していたのか」
 と俺は、シャーペンと消しゴムと問題集を筆箱やかばんに入れながら言った。
「そうよ」
 中野は、さっきまで机の上に広げていた問題集や教科書を元の本棚に納めながら言った。
「それじゃ中野よ。俺はもう帰るわ」
 俺は、かばんを肩に下げて中野に言った。
「そう、それじゃ須崎駅まで一緒に付いて行ってあげるわ」
 と言った後、中野は腰まで伸びている髪の毛を一つにまとめていつものポニーテールの髪型にしていた。
「中野よ」
「なに?」
 中野は、髪の毛を束ねるのに使うヘヤゴムを口に咥えたまま言った。
「別に、ポニーテールにしなくても今の髪型でも良いのに、どうしてくくるのが面倒なポニーテールにするんだ?」
 と俺は素朴な疑問を中野にぶつけた。
「別にいいじゃない、ポニーテールの方がなんか気持ち的に落ち着くのよ。それにこっちの方がかわいいし」
 と中野は恥ずかしそうに言った。そして、口に咥えていたヘアゴムを右手に持って、一つにまとめていた髪の毛の束を縛った。
「そうか、でも俺はポニーテールじゃないロングヘヤの髪型もかわいいなぁと思ったけどな」
 と俺は、ポニーテールじゃない中野の髪型を褒めたのであった。あのなめらかな髪の毛で風が吹いた時のゆらゆら揺れる髪はもうこの世にあるかないかっていう程美しかった。それに、中野のロングヘヤの髪型はいつも学校で見ているポニーテールよりかわいかった。
「そうなんだ」
 と中野は言った。そして、椅子に引掛けていた上着を着て中野は俺の横をポニーテールの髪の毛をゆらゆらと揺らして歩いて部屋のドアを開けて
「ほら、行くわよ」
 と言って、中野は部屋から出て行った。
「待てよ」
 と言って俺は、部屋から出て行ったのであった。部屋から出た後、一階に降りて玄関で靴を履いて外に出た。そして、自転車を停めていた場所に行った。
「ぁ! やっと来た」
 中野は俺が停めていた自転車の横に立っていた。
「遅く来て、悪かったな」
 と言いながら俺は、かばんを自転車のかごに入れて自転車のスタンドを足で蹴り上げた。
「ほら、早く行くわよ」
 と中野は言って、路地に出た。俺もその後に続くように自転車を押して路地に出た。
 それからというもの、お互い何も喋らないまま須崎駅へと歩いて行った。そして、須崎駅の手前にある自動販売機の前を通った時、中野が
「ちょっと私、喉が渇いたから飲み物おごって」
 と俺に言ってきた。ま、ここで俺の勉強に付き合ってくれたお礼として俺はお茶のペットボトル買って中野にあげたのであった。
「お前、財布持ってきてないのか?」
 中野がペットボトルの蓋を開けて飲んでいる時に聞いた。
「……机の上に置いてきたのよ! 上着の中に入れていると思っていたのに」
 と言って、中野はまた飲みだして歩きだしたのであった。
「やれやれ」
 小声で呟いて、中野の後を追ったのであった。
 そして、須崎駅の前に着いて俺は自転車にまたがった。
「中野、今日はいろいろとありがとな」
 と言った。
「ぇ? ……私は、ただ当然のことをしただけよ! それよりもあんた気をつけて帰るのよ、事故なんかあったら今日の勉強が水の泡になるんだからね」
「あぁ分かっているさ。それじゃ、また明日な」
 と言って俺は、自転車を漕ぎ始めて自宅へと帰ったのであった。
 家に帰った後も、お風呂に入らずに自分の部屋に入って教科書にある問題や問題集の問題をノートに書いて勉強した。自分の夏休みを守るためにそして、俺がバカじゃないということを中野に証明するために汗背を流しながら猛勉強した。
 
 それから三週間経ち、俺は教室で期末テストを受けていたのであった。一日目は数学と国語と地理で、二日目は理科と英語と保健体育でそして最終日の三日目は家庭科と音楽を受けたのであった。三週間の間、俺は中野や高野や泉や坂本に分からないところを教えてもらったりして、勉強した。
 そして、期末テストが終わり俺の努力の結晶とも言える答案用紙の採点も終わりすべての答案用紙の返却が返却されたのであった。
「ねぇ、テストの結果どうだった?」
 中野が、身を乗り出して聞いてきた。
「……結果か、この三週間というものあんなに必死に勉強したのにまさか、あんな結果になるなんて……」
「あんた、まさか!」
 と中野が、驚いた表情して言った。
「あぁ、英語と数学と国語で百点取るなんて夢にも思っていなかったぜ」
「ぇ? あんた、なに言っているの?」
「だから、英語と数学と国語で百点取るなんて夢にも思っていなかったって言ったんだ。まさかテストで百点取るなんて思っていなかったよ。これもすべて、お前と高野と泉と泉のおかげだな、本当にありがとう」
 と俺が、中野に感謝の気持ちを込めて頭を下げると中野は、顔全体を真っ赤に染めて
「別に感謝しなくても、私たちは当然のことをしただけよ! それよりもあんた、私たちになんかおごりなさいよね。期末が近いなか私たちの勉強の時間を省いてあんたの勉強に付き合ったんだから」
「あぁ、後日『ガスト』でなんかおごってやるつもりさ」
 と俺が言うと、中野は少し笑って俺の顔を指差して
「約束だからね!」
 中野は、笑顔で言った。
 
 後日、俺は約束通りに『ガスト』で4人の食事をおごってやったのであった。ご飯を食べ終わり今日の集いが解散となり俺が自宅へと帰っている時、バックに入れていた携帯電話の着信音が鳴り、俺は携帯を取り出して見た。携帯電話の画面を見ると、さっき別れたはずの中野からメールが届いていた。
「ちょっと今から、西崎公園まで来て」
 という内容のメールが届いていた。
「分かった」
 と返信をして、中野が待つ西崎公園に向ったのであった。
 中野のメールを受け取って数分後、西崎公園に着いたのであった。公園に入ると、すぐ近くにあった古びた木でできたベンチに、顔を下に向けてうつむいていた中野が座っていた。
「ぁ! やっと来た」
 中野が俺の存在に気付いて、うつむいていた顔を上げて言った。
「待ったか?」
「待ってない」
 と言いながら中野は、首を横に振った。
「そうか……それで中野よ、俺になにか用か?」
 俺は、そう言いながら中野の横に座った。
「ちょっとね。……あのさ、あの質問覚えている?」
「あの質問?」
「ほら、あんたが私の家に来て勉強を教えていた時に、聞いたやつよ」
「……?」
 俺にはさっぱり分からなかった。あの時で覚えているのは、中野が俺の耳元で鼓膜が破けそうな大声で間違っているところを指摘した事しか覚えていない。今でも、その声が頭の中で響いている。
「だから、私があんたに私のことをどう思っているかって聞いたじゃないのよ! 忘れたの?」
「そんなこと、あったっけ?」
「はぁ……」
 中野は呆れた顔をして、溜息をついた。
「それじゃ、改めて聞くわ。あんた、私のことどう思っているの?」
「……」
 俺は黙りこんだ。どう、返答したらいいか分からなかった。
「ま、突然こんなことを聞いてすぐに答えられる訳ないか。じゃ、私のこと好きか嫌いって言ったらどっち?」
「え?」
「だから、私のこと好きか嫌いかって言ったらどっちなの? 正直に答えてよ、嘘の答えは聞きたくないから」
 と言い、中野は俺の顔をいつもとは違う瞳で見てきた。
「……好きだよ」
「え? 今、なんて言った?」
「好きだって、言ったんだよ」
 俺は、にこやかに微笑みながら言った。
「どうしてあんた、私のこと好きって思っているの? 理由を教えてくれる?」
 と中野は、理由を追求してきた。
「お前の、ぶっきらぼうな行動と外見とのギャップに惹かれたからさ」
「……ギャップに?」
「初めて学校で会った時、ぱっと見た時は、こいつはおとなしい奴かなと思っていたけど、でも、後からこいつは一体何をしたいのか全く分からない奴だなと思っていた。けど、そういう外見とお前がやった事とのギャップが、お前の魅力なんだっていうことに気付いたんだよ」
 今、自分が中野のことをどう思っているかを堂々と言った。
「そうなんだ」
 中野は、顔をさらに赤く染めて言った。
「それじゃ、今度は俺が逆に聞くけど、お前は俺のこと好きか嫌いかって言ったらどっちだ?」
「ぇ? そうね……私も好きだよ、あんたのこと」
 と中野は、目をちらちらとさせながら言った。
「そうか。それじゃ、これが最後の質問だ。どうしてお前は、俺の事を好きなんだ?」
 俺は、いつもとは違う真剣な目付きをして中野を見た。
 今、中野は俺が言った『好き』という言葉を聞いて、どう思っているかを聞いてみたくなった。
「……私は、あんたの性格ややる気のない感じを漂わせているオーラに惹かれたのよ」
 そう言うと中野は、ベンチから立ち上がり俺の前に来て
「勘違いしないでよね! これは、そんなつもりないからね」
 と中野が言った瞬間、中野の顔が俺の目の前に来て、中野は目を閉じて自分の唇をそっと俺の唇に重ねてきた。
 俺はその瞬間、目を大きく開けて中野の顔を見ていた。まさか、こんなことをされるとはまったく思っていなかった。
 数秒後、中野はゆっくりと唇を離した。
「それじゃ、また明日ね」
 と言い残し、中野は近くに停めていた自分の自転車に乗って帰って行った。
 中野が帰った後、俺はしばらくそのベンチに座って夜空にまばゆく輝く星を見ていた。
 俺の『好き』という言葉を聞いてどう思ったかということは聞けたけど、まさか、普段自分の気持ちを外に見せない中野が、突然とあんなことをしてくるとは思わなかった。あいつも少しずつだが、変わってきているなと思った。俺は家に帰ったのであった。