募金に関して
2011年04月26日 19:53
作者:薄桜
削除
削除パスワード

void

始めまして、薄桜と申します。 「小説家になろう」で拝見しまして、微力ながら参加させていただこうかと・・・。 あちらの方で、同じような趣旨での活動用に上げたもので申し訳ないのですが、こちらにも投稿させて下さい。 同人誌の件、全然問題ありません。ご自由にお使い下さい。

「void」


俺の人生はこんなものなんじゃないかと思う。

void Touya(){

    int i, j;

    j = 0;

    for (i = 0; i < 10 ; i++ ){
        j++;
    }
}

引き渡す変数も無く、戻り値も無い。
関数の中でもたいした事はしてなくて、何のためにあるのかよく分からない。
プログラム言語の基礎にあるような、説明のためだけの意味の無い関数。

『void』
無。中身が無い。空っぽ。
プログラムの中で関数を宣言する際に、戻す値が無い事を意味する。

俺も、きっとそんなものだ。

日々同じ様な事を繰り返して、そこに意味があるのか、いまいち分からない。
9年目になる仕事は、仕様書通りのプログラムを組む側から、設計する側になったが、営業が良い顔した尻拭いを・・・クライアントの無茶な要望と実現可能な技術との間に挟まれ、頭を抱えるようになった。

ただ生きて行くために働き、その対価を得る。
それにも違和感と、疑問を感じる。
専門卒の俺の方が、大卒の役に立たないヤツらより、よっぽどマシだという自負はあるものの・・・それでも、初任給の時の差はどうにも埋まりはしない。
今のご時世、定期昇給は瓦解して、結局残業代で嵩ましという事になる。
上の取り決めた期限のおかげで、毎度仕事量はハンパない。残業代が基本給を抜く事はざらで、見事な嵩ましが出来ているが・・・その分心身共にボロボロだ。

最近、主任という肩書きを頂戴し、多少給料に色が付いたものの、責任という重しの方が遥かに増えた。
ただでさえ忙しいのに、そこに加えて、後任の育成だ?
ふざけんな、はっきり言って容量オーバーだ。
この忙しいのに、優しく後ろを見守ってやる余裕なんかあるわけ無いだろ? 自分でやった方が遥かに早いっての。
・・・そう思う気持ちを、抑えるのがかなりのストレスだ。

今はさすがに居場所くらいはあると思いたいが、もし嫌気の差した俺が居なくなった所で、いずれ替わりは補充されるだろう。そう思うと、自分の存在は何なのだろうと時々考えてしまう。
いずれにせよ、放り出して辞めてしまえば、生活に破綻をきたすのは目に見えている。
転職といった所で、俺に出来るのはシステム屋くらいのもので、どうせどこに行っても境遇に大差はない。
下手をすれば悪くなるだけだ。
・・・俺にそんな博打は打てない。

だから今日も鬱々とした気持ちを抱えたまま、深夜のコンビニに立ち寄り、食べ飽きた弁当の中から、それでもましな物を選ぶ。
酒代は痛いが、飲まないとやってられない日だってある。
発泡酒と、あてのサラミを弁当の上に乗せ、レジに控えたバイトの若造に委ねる。
ピアスに長髪のその彼は、相当にデカイ夢をその胸に抱えているんだろう。夢も希望もどこかでこぼれ落ちてしまっている自分には、とても遠い・・・別の世界の生き物に見える。
その彼に金を払い、釣りと商品を受け取る時には、心のどこかがチクリとして、とても苦々しい思いがした。

 ◇◆◇◆◇

誰もいない真っ暗な部屋の扉を開け、壁のスイッチを押した。
まぁ、独り暮らしの俺の部屋に誰か居たり、電気が点きっぱなしってのは、相当に問題があるんだが・・・。
台所と兼用の通路を進み、壁に立てかけるようにカバンを置き、テレビの前のテーブルにコンビニの袋を置く。
テレビとパソコンのスイッチを押して、丁度やっていたニュースに耳を傾けながら、スーツを脱ぎ、出来るだけ皺にならないようにハンガーに吊して壁のフックに掛けた。
そして、The俺の場所的な座椅子の前に陣取り、袋の中から弁当を取り出し広げる。

しかし、空腹感はあれど食指は今ひとつの状態で、買った事を少し後悔するが、とりあえず食わないと身が保たない。そう自分に言い聞かせてかき込んだ。

食後は向きを変えて、横のテーブルに据えたパソコンに向かう。
とりあえずメールを受信しながら発砲酒とサラミの袋を開けた。
まぁどうせDMばっかで、読めるものより削除するものの方が多い。
今日も大方はそんなもので・・・でも一件だけ差出人欄に並ぶローマ字が、懐かしい名前を表すように並んでいるものを見つけた。
「マサヒロ ツジモト・・・辻元昌祐・・・辻元がどしたんだ?」
長年使ってきたフリーメール宛てに届いたメールに驚き、かなり心が弾んだ。
高校卒業してからは、成人式に一度会って、確かその時アドレスを渡したんだっけ?
それも既に9年も前の話だ。
向こうもそう考えたらしく、
『このアドレスまだ有効か?』ってタイトルで、思わず笑った。
実はまったくの別人で、開いていきなりウイルスが展開・・・とか、そんな事も一瞬考えたが、添付ファイルも無く、ちゃんと懐かしい友人からの文章が画面に表示された。

+-----------------------------------------------------------+
 差出人:Touya Takamura
 件 名:このアドレスまだ有効か?
 宛 先:高村 透哉
+-----------------------------------------------------------+
 高村元気か?

 成人式以来になるかな?
 久しぶりに連絡を取ろうと思ったのは、
 懐かしい物が出てきたからなんだが・・・
 覚えてるか?
 交換した比和さん宛ての出せなかったラブレター。
 それが、つい最近片付けてて出てきてさ、
 何か懐かしくてな。

 お前のアドレス探して(悪いが相当探した)
 こうして連絡してみたんだ。

 もし、このメールが届いてたら、速攻連絡よこせよ。
+-----------------------------------------------------------+

そういえばそんな事をした。
中学の時、お互いに同じ人が好きで、同時に手紙を書いてみたものの、どちらも渡せず仕舞いで・・・
とうとう卒業間際になって、自分で持っとくのも恥ずかしく、捨ててしまう決心もつかなくて・・・お互いに交換しよう、これも青春のメモリーだ!って、恥ずかしい事を言い出したのはあいつだ。


どうしたかな、あの手紙?
専門行くのに一人暮らしをするようになって、実家に置いておくのも抵抗があって・・・持って出たような記憶がある。
確か・・・大事な漫画と同じ箱に入れて・・・、日に焼けるのが嫌だから箱のまんまで、その箱はクローゼットで・・・、
記憶を順に辿ってクローゼットからダンボール箱を引っ張り出し、中身を漁った。
同時は人気の、でも今は懐かしいと感じる単行本が、ギッチリと詰まったその端っこに、記憶と|違《たが》わない封筒を見つけて引っ張り出した。
「これだよな。」
自分以外誰も居ない部屋にいて、そんな必要も無いのに少し嬉しくて呟いた声は、テレビの中の一方的な笑い声に掻き消され・・・
いつの間にニュースが終わったものか、深夜枠のバラエティ番組が始まっていた事に今更気付いた。
一人の部屋に無意味に響く笑い声に、何となく虚しいものを感じてチャンネルを変え、無言で箱を閉じ、元の場所に押し込んだ。

パソコンの前に再び座して封筒を開けた。
別に糊付けされた訳でもない封筒から、中のルーズリーフをあっさりと取り出す。
そうか、ルーズリーフに書いてたのか。
俺は、家にあった便箋を貰って書いた記憶がある。
当時は人の心の中を覗くような気がして、読むのを遠慮していたが、さすがにもう時効だろう。
そう思い、14年間放置されていた辻元の手紙に今初めて目を通した。

辿々しいながらも一生懸命で、そして、比和さんを想う辻元の熱い気持ちが、面白いほど文面から伝わってきた。
完全に俺の負けだな。
清々しい程にそう思えた。
どちらも渡せずじまいの昔の手紙に、勝敗も何もあったものじゃないが・・・俺のリタイヤでいいやって、一人で笑った。

+-----------------------------------------------------------+
 差出人:Touya Takamura
 宛 先:Masahiro Tujimoto
 件 名:ちゃんと届いたぞ。
+-----------------------------------------------------------+
 久しぶりだな、元気か?
 俺はまぁ、無事生きてる。

 お前の手紙見つけた。ちゃんとある。
 今まで、何となく遠慮があってそのままだったんだが、
 さすがに時効だろうと思って、今日初めて読ませてもらったよ。

 今更だが、あの手紙は俺の負けだな。

 今度どっかで会わないか?
 もう一度、手紙の交換をして、ちゃんとした持ち主の元に返そう。
 俺が持ってるのは荷が重い(笑)
+-----------------------------------------------------------+

そう打ち込んで、送信ボタンを押した。

あれから何度かメールのやり取りをして、携帯の番号も交換した。
実は、お互いそう遠くない場所に居る事が分かり、じゃぁどうせならと、金曜の仕事終わりに飲む事になった。

 ◇◆◇◆◇

当日は、予定外の事が起こりそうになるのを何とかすり抜けて、別のやつに押し付けた。それでも予定の時刻から少しずれてしまい、辻元を少し待たせる事になった。
「悪い、少し仕事が長引いた。」
「やっと来たな。しっかしお前、老けたんじゃないか?」
「ひでーな、大人になったんだよ。お前も大分変わったぞ。」
そして、お互い顔を見合わせて笑った。
「まぁ、もうすぐ30だしな。」
そして笑いが止むと、俺は思わずこぼした。
10代から20代へのランクアップは、期待感が溢れている。
だがしかし、20代から30代へは、溜息しか出てこない。
そして、その瞬間はもうすぐそこに迫っている。
「だな、昔は30っていやぁおっさんってイメージだったんだが、いざ自分がそうなってみると、そんな気はしないんだよな。」
「だな、けど『昔』って言葉が出るあたり、十分俺等もおっさんなのかもな。」
「それを言うなよ・・・。」
情けない顔で、乾いた笑いを立てる辻元に、俺も苦笑を返した。
・・・確か、俺の方が2ヶ月早くその時を迎える筈だ。

通りがかった店員にビールとつまみをいくつか頼み、俺たちは改めて再会を祝した。
お互いの近況と、思い出話でしばし飲んだ後、
「そうそうこれこれ、これ返さなきゃ意味ねーよな。」
アルコールの作用でよく回る辻元の舌が、今日の本題を切り出し、カバンを探って茶色い封筒を取り出した。
それは何の変哲も無い事務用の薄い茶封筒で、色気も何もあったもんじゃねえな・・・と、当時の自分に苦笑しながらそれを受け取り、俺もカバンから白い封筒を出して辻元に渡した。

二人が惚れた女の子。|比和 麻衣子《ひわ まいこ》は、ちょっとキツめの子だった。
守ってあげたくなるようなタイプじゃなくて、逆に守ってくれそうな気もする・・・親分気質で、正義感が強くて、それでいてとても女の子らしかった。
男子と一緒に騒げるノリの良さがあり・・そのせいで手紙を渡せなかった。
良い友達だったから、友達からその先に手を伸ばすリスクは犯せなかった。
結局、彼女とは中学までで・・・そこから先はまったく会ってない。
成人式でも会わなかったし、同窓会は俺の方が行ってないので、参加していたのかどうかすら知らない。

自分の手紙を眺めて、昔の純粋な気持ちにくすぐったいものを感じて・・・それでも懐かしさに表情が緩む。
だから、自然とその疑問が口をついて出た。
「比和さんどうしてるかな?」
当然同い年の彼女も29歳で・・・既に誰かのものになって、母親になってるかもしれない。そう思うのが当たり前の歳だ。
だが、だとしたら自分とはえらい違いだなと、思わず口の端が歪む。

もちろん彼女の行方を知らない身としては、答えを期待した訳も無く、話題の一つとして口に乗せただけだ。
だが、意外な事にその答えが返ってきた。
「・・・あー、それなんだがな。・・・今度結婚する。・・・悪い。」
そう言った、正面の辻元は少し俯いていた。
「誰が? 何が悪いんだ?」
「俺と・・・比和麻衣子。」
なるほど、それが本当の本題か。
アルコールの効果はどこに行ったものか・・・。
俺の出方を待って、よく回っていた舌は急に動かなくなってしまったらしい。
だが、昔の思い出に律儀にこうして向き合って、たいしたヤツだと改めて感心した。
「そっか、おめでとう。」
その一言で|面《おもて》を上げた。
「良かったら式に来てくれないか?」
「あぁ、喜んで。」

それから式場の場所と、二人の馴れ初め・・・営業先で偶然再会して、再燃する思いのままに猛アタックをかけたって話を笑いながら聞いた。

「なぁ、式は教会式か?」
「んぁ? そのつもりだけど、どうかしたか?」
「じゃぁ・・・異議があるものはって|件《くだり》で手を上げていいか?」
「おいおい、止めてくれ。」
「冗談だ、本気にすんなよ。」
「お前が言うと、笑えねーよ・・・。」
引き攣った顔で、日本酒を口にする友人に、
「間違いなく祝ってるから、心配すんな。お前と違って、俺にはただの思い出だ。」
そう言って、グラスのカクテルを煽った。

 ◇◆◇◆◇

気分が良い。
決して清々しい筈も無い街の夜風を浴びて、それても気持ちが良かった。

酒のせいってばかりじゃなくて、懐かしい友に会えたってだけでもなくて。
必死に口説き落としたっていう話に、何もしようとしていない自分を対比した。
辻元の中にそんな熱いものがあるんだ、同い年の俺の中にだって、きっとそういうものがあるんじゃないかって・・・そんな希望が持てた。

日々に疲弊して、冷めていくだけの自分に絶望しかけていた時にヤツに会えた。
メールで話して、実際に話して、きちんと顔を会わせて・・・
それだけでも、昔の無邪気だった頃の自分に、少しは戻れた。

だから、人の幸せをただ指を咥えて見てるってだけじゃ・・・情けないよな?

少し自分を見直そう。
そう思って、この休みは部屋を片付けた。
雑然とした部屋にいて、新鮮な気持ちになれる訳が無い。
嬉しいハプニングにも対応できやしない。
・・・まぁ、これは都合の良い願望だが。

引数も戻り値も、関係無い。
俺は俺で、やれる事をやればいい。
自分という関数の中で、たいした事はしてなかったのは自分で、
何のためにあるのかよく分からないと思ってたのも自分だ。
だから、自分のために意味のある生き方がしたくなった。

 ◇◆◇◆◇

週明けの月曜日、会社の近くにカフェができていた。
思い出してみれば、この間までは『近日オープン』と貼ってあったような気がする。
テイクアウトでコーヒーでも買って出社するか。
そう思い店の自動ドアをくぐった。

そして、運命に出会った。
・・・まぁ、運命は、多少大袈裟かもしれない。
けど、レジで微笑むショートヘアに赤いメガネの、スレンダーな店員に・・・一目惚れした。

やっぱり俺は気が強そうなのがタイプらしい。
営業スマイルの中にも、どこか芯の通った所が見て取れて、難癖つけてきた客にはそれ相応の対応をしそうな人だなと、待ってる間中その姿を目で追った。

この店は日参かな・・・。

そうドギマギしながら、コーヒーと釣りを彼女の手から受け取り、どこかフワフワした心地で会社に向かった。